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第2話
祖母が亡くなって早10年が経過し、俺は28歳になった。祖母がいつも座っていた場所に俺は座る。傘の骨組みを入れている筒に祖母が生前好んで使用していた臙脂 色の和傘がある。竹は痛み、現在傘としては使えないけれど、和紙を変えたり、天日干しをしたりして時々眺めている。
がらら、と店のガラス扉が開く。今日もお客さんが来てくれた。祖母が亡くなってから遠のいた客足も、京都の傘屋で修行した後は徐々に戻っていった。傘の修理屋はなかなか無いので、遠方から来てくれる人もいる。
「いらっしゃいませ。」
俺の背丈ぐらいの扉を少し屈みながら入ってきたのは、体格のいい男性だった。
「こんにちは。」
低めでよく通る声だ。その男は傘は持っていなかった。
どうしたのだろうかと思っていると、目が合って、男が「あ。」と目を見開く。
「春じゃないか?」
「そうですが…。」
苗字を呼ばれて頭の中で過去に出会った人物と目の前の人物を当てはめるが該当者は見当たらない。
「おおっ!まじかあー。ここで傘屋やってんだな。俺の事覚えてない?」
俺の方へずんずんと近づき、間近で顔を見せてくる。黒髪の短髪ではっきりとした顔立ちをしている。175㎝ある俺より10㎝は高そうだった。黒のTシャツから覗く腕は太い。大きいゴリラみたいだ。考えを巡らせるがやはり見たことがない。
「…申し訳ございません。どちらでお会いしましたか。」
「敬語とか寂しいわー。小・中と一緒だったじゃん。圭助 だよ。わかる?」
「圭助……」
昔の記憶の苦い記憶が蘇る。ここは小学校から中学校まで1クラスだけの、子どもが少ない地域だ。俺の知っている圭助はかけっこが速くて、いつもみんなの中心で笑っていた。背も体重も平均だったので、目の前の男と結びつかなかった。でも確かに目の上にホクロがある。
「思い出した?」
「………うん。」
「反応薄いな!もっと、よ!久しぶりじゃん〜とか、何でここにいるんだ〜とか聞いてよ。」
「…久しぶりじゃん。何でここにいるんだ。」
「復唱かよ!」
がははと大きな口で笑った顔は昔の面影があった。昔感じた甘い感情が溢れていく。
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