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「……っ」 滑らかな布が擦れ合う音に導かれ正面に視線を戻せば、ダンケルハイトはベッドの上に横たわっていた。 眠るためにシーツを身体にかける様子も無く、全裸のままでこちらを見つめてくる。 そこからは怒りも悲しみも感じ取る事は出来ない。 したいのならばさっさとすればいい、と無言で伝えてくる。 この期に及んでもダンケルハイトの態度は以前のままであった。 「その……ダンケルハイト……」 心の奥底から湧いてくるもどかしさを押さえつけて、不要になった桶と布巾を床に置く。 このごろは日に当たっていないためか、ダンケルハイトの身体は白く細くなり、少々女性的でこちらを落ち着かない気分にさせてくる。 そんな状態の私がベッドの傍に寄って顔を覗き込むが、深紅の瞳はやはり揺らがないでいた。 「今日は、時間があるんだ。こういうことはせずに、ゆっくりとお前と話し……ダンケルハイトッ」 私の提案が終わらない内に、ダンケルハイトは背を向けてシーツを被ってしまった。 絹製の白い布は顔まで覆ってしまい、僅かに覗いている黒い毛先が見えるのみだ。 「ダンケルハイト、もうお前に狼藉を働かないと誓う……だから顔を見せてくれ」 「……」 縋る様に頼んでみるが、布の塊は一向に動かない。 このまま時が過ぎれば、私はダンケルハイトと一言も言葉を交わせないまま公務に戻らなければならないのだ。 時間は無限ではない。 これまでよりゆとりが出来たとはいえ、明日の午後には屋敷を出なければならない。 睡眠不足が原因で無様な姿を表に出すわけにはいかない。 それまであった余裕が瞬く間に消えてゆき、再び焦燥感に襲われてしまう。 「ダンケルハイト……」 耳元で囁いた名には邪な熱が込められていた。 それを察したかのように、梃でも動かない態度でいたダンケルハイトの身体が身じろぐ。 「ふん……」 呆れを含んだ笑い方だ。 誓いを立てておきながら、舌の根も乾かない内に私の身体は熱くなっている。 彼の中の私への信用は、どれだけ堕ちていったのだろうか。 「……ダンケルハイト」 それでも、友が私を再び見てくれたことが嬉しくて、衝動のままに唇を重ねてしまう。 ダンケルハイトはやはり抵抗をしない。 唇の重なりを深くして、舌先を差し込む。 舌と舌を合わせてやると答える様に擦り寄ってきた。 そうなってしまうと、もうダメだ―― 何一つ纏わないダンケルハイトの胸もとに手のひらを這わせる。 膨らみはまったく無いので、とりあえずひっかかる乳首を重点的に揉んでやれば、硬くしこっていくのが伝わる。 ダンケルハイトの身体が私の手によって変化するのは何よりも心を満たした。 これまでは時に追われ、とにかく挿入することを目的として行っていたが今夜は違う。 (今夜は……ゆっくりと……) 話をするはずだった時間を愚かな行為に当ててしまう。 それでも、ダンケルハイトと言葉を交わせず、顔を見ることすら叶わずに屋敷を出ることはできなかった。 ほんの少しでもダンケルハイトが生きている証が無ければ、恐ろしくて離れることが出来ない。 (お前はまだ、生きているのだろうか……) 時折滑稽な妄想に走ってしまう。 これは夢で、あの日ダンケルハイトは絞首台で滞りなく罰を受けたのではないかと。 目が覚めればダンケルハイトのいない現実が待っているのではないかと。 「んっ……」 夢中になって吸っていた唇を離せば、ダンケルハイトの顔がそこにはあった。 私が貪ったために乱れた呼吸を吐く唇は赤く腫れ、濡れた舌が覗く。 高揚した頬も薄紅に染まり、そのどちらよりも紅い瞳は飴細工のように輝いている。 ダンケルハイトの乱れた顔など、生涯見ることは無いと妙な確信を持っていた。 何より本人が見せたがるはずが無いと。 だからやはり、これは私の都合のいい夢なのではないかと考えてしまう。 「どうして……抵抗しないんだ」 これまで幾度となくかけた問いである。 ダンケルハイトは抵抗をしない。 嫌悪を表情に表すことすらない。 だが、私と意思疎通を図ろうとはしてくれない。 「……ふん」 常と変わらず、ダンケルハイトは鼻で笑い飛ばして大人しく足を開いて見せた。

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