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「先生」  真澄はゆっくりと振り返る。用意した着流しを身につけた夜彦が、こちらへと近づく。 「髪がまだ濡れている。これじゃあ、外にいるのと変わらないよ」  自分より幾つか下の男を宥めるように、真澄は濡れそぼった夜彦の髪を撫でた。自分より短い黒髪。華奢な体型の真澄とは違い、肩幅が大きく背も頭一つ分高い。  夜彦の手が真澄の頬に触れ「先生こそ、冷たいですよ」と言った。 「ああ、さっきまで縁側にいたからね」 「俺を待っていてくれたんですか」 「……紫陽花がね、とても綺麗に咲いているんだ」  見せてあげるよと続けて、障子に向かおうとした真澄の身体が動きを止めた。腕を引かれ、振り返る。同時に布団に引きずられ、視界が夜彦と天井に変わった。  夜彦に視界と唇を塞がれ、性急な動きで湿った掌が着流しの隙間を這った。 「んっ……くすぐったい」  真澄が訴えるも、夜彦は黙ったまま掌を腰の辺りまで行き来させていく。唇を吸うように嵌まれ、濡れた舌先が真澄の薄らと開いている唇の間に入り込む。  息苦しさに真澄が小さく嘆息すると、顎を掴まれ深くまで抉るようにぬるりとした舌が絡んだ。 「ぁ……はぁ……っ」  互いの唾液が絡み合い、籠もった雨音に混じる。満足いくまで唇を貪り合うと、やっと夜彦が顔を上げた。  真澄は男を見上げる。薄暗い室内にぼんやり浮かぶ、欲望の滲んだ双眸(そうぼう)。男が着流しを乱して自分を見下ろしていた。最初に会った二年前より、ずっと男の顔だった。寂寥感(せきりょうかん)に真澄は作るように笑みを浮かべる。  再び顔を沈めた夜彦の唇が真澄の首筋を伝う。宥めるように夜彦の頭部を手で撫でると、身体が下へと落ちていく。乳頭を舌先で嬲られ、真澄は腰を僅かに浮かせて小さく喘ぐ。 「先生、上に」  言われた通りに夜彦の顔の前に、臀部を突き出すように上に跨った。真澄の目線の先には隆起する白い布。先端が微かに湿り気を帯び、顔を近づけると漢の匂いがした。  着流しの裾が捲られ、腰の辺りに固まる。開くように臀部を撫でられ、濡れた感触に身体が震えた。 「あっ――」  押し寄せる快楽を堪えるように固く目を瞑る。がっしりと臀部を掴まれており、逃げられない悦楽に眦から涙が溢れていく。  一方的な快楽はやるせなく、真澄はゆっくりと目を開いた。歪んだ視界の中、もどかしげに濡らす竿を取り出す。唇を寄せると、先端に浅く吸い付く。酸味が口内を染め上げた。

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