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 一人になった二度目の梅雨。一昨年よりも雨の日が多かった。縁側に腰掛けた真澄は、待つともなく生け垣の向こう側を見た。  たまに通るのは和傘又は洋傘を差した人々。傘を持たぬ者もいたが、皆一様に足を早めている。  今年も紫陽花は桃色の花弁を重ね、美しく咲き誇った。此処に居る限り、桃色の花弁以外の色を目にすることは叶わないかもしれない。そう思い至り、大袈裟なことだと真澄は笑った。少し足を伸ばせば、色とりどりの紫陽花などいくらでも見れる。  不意に真澄は表情を険しくした。立ち上がり、文机から紙と万年筆を手に戻る。  三年という長いようで短い歳月で見た、夜彦との紫陽花の鮮やかさを頭に描く。自然と万年筆が紙の上を滑った。  庭先に幾十重なる紅の花  雨露に濡れたその姿は  かつての君を彷彿す  青がある白がある  それを欲する己あり  枯れた紫陽花は花を落とさず  頭を垂れて死を待つのみ  我が身と重なり哀愁過る  そんな僕を笑ってくれ  笑っていてくれ、僕は願う  いつからだろうか。好奇心から好意に変わっていたのは――  気づけば真澄の頬は濡れていた。雨はどうやら風と共に、頬をも濡らしていたらしい。真澄は濡れた頬を袖で拭った。  書いた詩を丁寧に葉書に清書し、夜彦の住所と氏名を綴った。  投函した後、真澄は僅かばかし後悔した。  まるで自分が泣き言を漏らしているように思えたのだ。彼よりも三つも年上だというのに、恥でしかない。でも今となっては遅い。自分の名前は書いていない。だから自分だとはわからないだろう。  それに――あの日渡した傘は、翌日には玄関先に置かれていたのだ。それでも夜彦が来ることはなかった。今考えると、あれは彼なりのけじめだったのかもしれない。

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