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 真澄の詩人としての仕事は、以前よりは増えていた。応募した詩が雑誌に載り、目をつけた編集から声がかかったのだ。  以前までは『無機質で人間味にかけている。詩とは人の心の鏡である。よって彼の鏡は、曇っていて見えやしないのだろう」と、(なにがし)の有名詩人に批評され、仕事がない時もあった。  それが今や「彼は人間となった。鏡を新調したのであろう」と、某の詩人が大層な意見を述べていた。皮肉にも思えたが、仕事が増えたことは真澄にはありがたかった。  だが一方では、真澄を囲っている男の足が遠のいていた。かつては一月に一度は顔を出していた。それが今では、半年に一度に減っていたのだ。新たな愛人でも出来たのかもしれない。  歳を重ねれば重ねるだけ老け込んでいく。男である自分に着飾るすべはない。真澄は十八で囲われ、今は二十七になる。自分の身の振り方を考える時がついに来たと真澄は感じた。  真澄は親に言わずに詩人を志し、一人上京した身であった。大学在学中に出会った男の妾になり、詩に集中できると大学は辞めてしまった。将来を期待し、大学に入れてくれた親からは当然のように勘当された。  自由の身になり詩人になるべく門下に入るも、妾であると知られて脱退を余儀なくされた。孤独のまま、雑誌に寄稿するも採用された数は指で数えられるほどだった。  でもこれからは自立できそうであった。詩人を生業にするという夢が叶ったのだ。だが、心は暗澹としていた。今までに感じたことのない孤独感。それが裡で冷たい雪となり、やむことなく積もっていた。  詩を投函して二ヶ月後。真澄は自分を囲っている男が来た際、もう終わりにしたいと告げた。  男は引き留めることはせず、すぐに了承を述べた。彼は一度たりとも、自分に好意を伝えてきたことがなかったのだから、当然のことだった。長い付き合いだったが不思議と真澄の中で、憤りも悲しみも湧きおこりはしなかった。  ただ、以前に見た夜彦の真面目な面立ちを思い出していた。好きだと、愛していると言った、あの厚い唇を――

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