4 / 5

第4話

「それはSNSでフォローしている人と単に同じものを買ってたし、好みも真似して喋ってた。身長とか歳とかも近いからあんまり違和感無いと思ってさ。サトダくんの勤めている系列のアパレルメーカーだってその人から知ったんだ」  「ああ、そっか。そう……」  人の真似とあっさり言えてしまう夏川に一定の図太さと闇を垣間見たような気がした。そんな男は人の気持ちを搾取するのかもしれない。友達がいないと言うのも本当のことなのだろう。ならば少し哀れだった。ユキヒロは途切れかけた話を戻した。 「話が少し逸れたけど、つまり……だから、金は払うから友達のまま耐えて欲しいってことだよね」 「いや。ごめん。耐えるとか、そういう強い言葉はちょっと適切じゃない……」  夏川は苦笑いで困惑を隠したつもりのようだった。隠しきれなくなった感情はもう面倒だと言われているようにも見えた。  わかってる。自分が同性愛者で、恋愛感情をもつ勝手を受け入れろ、然もなくば去ってくれと通そうとしている。それが夏川を困らせている。だからユキヒロは謝る。 「ごめんなさい。欲張りで。けどそれは耐えろってことになるんだよ。例えば夏川さんは振られた上で相手に友達でいてって言われたら辛くないの」  「それは辛くても、受け入れるよ。出会った時に戻るってことだよ。仕方ない」 「戻るなんて、そんな簡単に」  ユキヒロは思う。どんなに勇気を持って順序立てて告白したかどうかなんて想像もしていないのかも知れない。  夏川はユキヒロの言葉にため息をついた。反論が思いつかなかったのだろう。ごねるほど惚れている癖に、聞き分けのない男だと呆れている。 「夏川さんは、やっぱり人間が出来てる。そんな経験沢山あるんだろうねきっと。でも、俺にはないからその考えはわからないな……」  ユキヒロは少し皮肉めいた物言いをする。それは同時に恋愛経験の探りを兼ねていた。 「あ、いや。経験なんてないよ。仮にそんなことがあったら俺はそうするって思ったんだ。だからって、サトダくんもそうしろって命じる訳じゃないけどね。でも悪い話じゃないと思うんだ。そうこうしているうちに他に気に入った男ができるのは、俺は構わない訳だし」  そう夏川は軽薄な口調で語り出した。その軽薄さは怒りを抑えた結果のもののようだとユキヒロには見えた。恋愛経験もあまり無いのかもしれない。  夏川との話し合いはこの偶然起きた立ち話のまま長く続いた。  ああ言えばこう言う。紳士の皮を一枚剥いだら中学生が出てきたような、薄さだった。  ユキヒロは途中からちゃんと話を聞く為にある程度の気力が必要になった。これ程長く、内容は予想外に薄いものだが、その分好みの顔が感情に動く様を眺められていたことに気づいた。         どうしても自分の思い通りにしたいらしいことはわかった。これもひとつの執着なのだろう。そう思うと少し許せた。その少しの部分で、夏川の思う通りにしてみようとユキヒロは思い、承諾した。 ーー惚れた弱み。    そんな言葉が頭に過ぎった。ユキヒロは地下鉄駅構内に戻っていた。「なんでまた戻るんだよ」帰り際、夏川が干渉してきたがユキヒロは「とりあえず、一人で飲みたくなった」と正直に理由を告げて、逃げるように階段を降りる。発車前の扉の開いた地下鉄に飛び乗った。さっきの帰りの車内より更に混み合っている。床が濡れていた。

ともだちにシェアしよう!