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第4話
次の週末になり智樹は彼女と現れた。あれから交際は順調なのか、仲は良さそうに見えた。凛はチクチクと胸が痛んだが、智樹が幸せであればそれでいい、そう言い聞かせた。
「こんばんは」
いつものように、バック作業をしていると声をかけられた。
「あ、こんばんは」
顔が一気に熱くなる。
「あっ!また、傘忘れた!ごめんね」
そう言ってまた、両手を胸の前で合わせた。
「大丈夫です。いつでも」
「そうそう、あれ、すごく良かったよ。泣けた」
凛は思わず嬉しくなり、自然と笑みが零れる。
「良かったです……」
「まぁ、彼女の趣味には合わなかったみたいで、案の定寝てたけどな」
智樹は呆れたような声を出す。
「あんな感じの、他にないかな?」
「他にですか?」
うーん、と凛は考え棚を見渡す。
智樹がふと一本のDVDを手に取った。
「これ、ちょっと気になってたヤツだ」
それは凛が観るか迷っている、同性愛がテーマのDVDだった。
「イタリアの風景とか凄く綺麗だって」
「それは……お勧めしません」
「え?なんで?」
「同性愛の話ですから」
「へぇ、そうなんだ」
凛は智樹と目を合わせる事が出来ずまるで、やましい事があるように視線を逸らす。
「観たの?」
「いえ、まだです。どうせ、ハッピーエンドじゃないの分かるので」
「ふーん」
智樹はそのDVDをパッケージから抜いた。
「借りるんですか⁈」
「うん」
「なんで、ハッピーエンドじゃないって分かってて借りるんですか⁈」
「俺は別にハッピーエンドを望んで観るわけじゃないから」
凛は顔を上げれず、智樹のスニーカーをじっと見つめた。
不意に頭に智樹の掌を感じた。
「感想、楽しみにしてて」
髪をクシャリとされると、智樹はレジへと向かって行った。
その日、凛は智樹が借りた同じDVDを借りた。
やはり観なければ良かったと思った。予想通りの結末で凛は号泣した。智樹はこれを観てどう思ったのだろうか。
返却日に智樹は店に現れなかった。
例のDVDは返却されていない為、外の返却ボックスを利用するのかもしれないと思った。
閉店十五分前になり閉店作業の為、凛は風除室に行った。
知らないうちに雨が降っていた。
(傘……ないのに)
智樹に貸した傘は未だに返って来ない。店の近くにアパートを借りている凛は徒歩で店まで来ていた。今は小雨で傘がなくても大丈夫だったがこれ以上降らない事を祈った。
風除室に回収した幟 を立て掛けていると自動ドアが開き、慌てたように入ってきたのは智樹だった。
「あー、間に合った」
「返却ですか?」
「うん、お願い」
手に持っているキャリングバックを受け取る。
「三上くん、この後何かある?」
智樹の言葉に目を見開く。
「何も……ないですけど」
「じゃあさ、終わるの待ってるから飲みに行こうよ。傘のお礼……って言っても、傘は今日も忘れたんだけどねー」
そう言ってヘラリと笑った。
「で、でも……」
「三上くん、もしかしてお酒ダメ?あっ!もしかして未成年⁈」
「いえ、二十歳超えてますし、お酒も飲めますけど……」
あまりの急展開に頭が追いつかない。
「じゃあ、自販機の所で待ってるから、終わったら来て」
「あ、はい……」
「じゃあ」
智樹は軽く手を挙げ風除室を出て行った。
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