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第5話

裏口を出ると、智樹が待っている自販機へ向かう。 本当にいるのか不安だったが、智樹はタバコを燻らせそこにいた。 (本当にいる……) 凛の姿に気付いた智樹は、お疲れ、そう言って笑みを浮かべた。 「三上くんは歩き?」 「あ、はい」 「じゃあ、そこでいい?雨上がって良かったわ。俺が三上くんの傘拉致ってるからな」 店から十分程歩いた所に、チェーン店の居酒屋があった。 中に入り席に通される。 目の前には、ずっと恋心を抱いていた智樹がいる。 これは夢なのではないかと思った。この状況に凛は未だ頭が追いつかない。 「ビールでいい?」 「はい」 「何か食べたい物は?」 「えっ……と、じゃあ、唐揚げを」 「あとは適当に頼んじゃうよ?」 コクリと凛は頷く。 ビールが届きグラスを合わせ、カンパイをする。 「三上くんって、いくつ?」 「二十一です」 「わかっ!大学生?」 「はい、えっと……智樹さん?は、いくつなんですか?」 「あれ?何で下の名前知ってんの?」 「彼女さんが呼んでたので」 「名前も言ってなかったな。堺智樹、二十八歳でーす」 智樹は戯けたように言った。 「堺さん」 「智樹でいいよ」 そう言って智樹はゴクゴクと喉を鳴らしビールを飲み干す。 その動く喉仏が酷く色っぽく見えて、凛は慌てて視線を逸らした。 「今日、彼女さんは?」 「今、喧嘩中」 「え?また?」 思わずそう口走ってしまい、慌てて口を塞いだ。 「いつもの事だよ。彼女、結構ワガママでさー、もう限界かも……」 智樹はタバコに火を点け、大きく吸った。 しばらく映画の話しで盛り上がり、思いのほか酒が進んでいる。お互いに好きな映画が同じで、凛も酒の力もあるのか口数が多くなる。 恋愛関係になどならなくてもいい、こうやって智樹と話せるだけで幸せだと思った。 「彼女とはまず、映画の趣味が合わない。アイツはイケメンばっか出てる恋愛ものが好きで、オレはアクションとかドラマが好きで、今回もそれで喧嘩」 「そうなんですか?」 「先週借りた同性愛の映画観て彼女、気持ち悪いって言ったんだぜ?」 その言葉に大きなショックを受け酷く傷付いている自分がいた。 「智樹さんは……どう思いました?あの映画」 凛は真っ直ぐな目を向けた。智樹はいつになく真面目な顔をしていると思った。 「泣いたよ。君が言った通り、パッピーエンドじゃなかった」 凛の胸がぎゅっと締め付けられた。 「三上くんは観た?」 「はい、観ました」 「どうだった?」 凛は少し間を置いて言葉を選んだ。だが、選ぶ程の言葉などなかった。 「観なければ良かったと……思いました」 あの映画を思い出し、また涙が出そうになり俯いた。 「そろそろ、出るか」 智樹は急にそう言って伝票を手にした。 外に出ると、 「ご馳走様でした」 凛は頭を下げる。 「あ、そうだ。傘!また忘れるとこだった。ここから俺んち近いから、ちょっと寄ってよ。ついでに飲み直ししよう」 「え⁉︎」 半ば強引に手を引かれ智樹のアパートに向かった。 居酒屋から歩いて五分程の所に智樹のアパートがあった。 智樹は部屋の鍵を開けると凛を部屋に通した。 「お邪魔します」 靴を脱ぎリビングに入ろうとした瞬間、智樹に抱きしめられた。一瞬何が起きたか分からず、智樹の顔を見た。智樹の顔が近付いてきたのが分かった瞬間、唇を塞がれていた。

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