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第6話

「んっ、んっ……」 容赦なく智樹の舌が凛の口内を掻き回し、ズクズクと凛の腰が疼いた。一度唇が離れると、お互いの舌先から銀色の糸がいやらしく光った。再び唇を塞がれると智樹の手が凛のシャツの下に侵入し胸を弄られる。 「と、智樹……さん、待って……」 「ごめん、無理」 そう言われると、ベットまで腕を引かれ押し倒された。 智樹に組み敷かれ、上から智樹に見下ろされる。そこには欲情しギラギラした目をしている智樹がいた。 「傘を貸してくれた日からずっと、気になってた。いや……それよりもずっと前から、君を見てた」 そう言ってまた唇を塞がれた。 「恥ずかしそうに俯くと、この髪が顔にかかる仕草が色っぽくて綺麗だなって、歯に噛んだ笑顔が可愛いって思ってた」 そっと凛の髪を愛おしそうに撫でた。 智樹の言っている言葉が信じられず、凛は固まる。 「男の俺がこんな事言うの、気持ち悪いか?こんな事されて気持ち悪いか?」 智樹は悲しそうに眉を八の字にし、凛を抱きしめてきた。 凛は首を振ると、智樹の背中に手を回した。 「好きだ」 耳元で智樹に囁かれると再び唇を塞がれた。 貪るように二人は体を重ねた。 「もしかして、気付いてました?俺がゲイだって事」 隣でタバコを燻らせている智樹に尋ねた。 「もしかしたら、とは思った。あの映画を勧めなかったのと、見なきゃ良かったって言ったから少し確信した。で、今して確信した」 そう言って触れるだけのキスをされた。 「でも、俺に向ける目がそうなのかも、って思ったのが一番最初」 分かり易かったのかと思い、顔が熱くなる。 「智樹さんはノンケですよね?」 「そうだな、女としか付き合った事はない」 凛の頭の中で目まぐるしく考えがよぎった。 「彼女と別れるから、別れたらちゃんと俺と付き合って欲しい」 智樹は凛の背中を抱きしめると、背中に何度もキスをしてきた。 嬉しいはずなのに凛は返事をする事ができなかった。そのままもう一度抱かれ、凛は果てると同時に意識を失うように眠りに落ちた。 凛が目を覚ますと隣で智樹が穏やかな寝息を立てていた。そっとベットから降りると静かに着替えて、智樹の部屋を出た。 家までの道を凛は泣きながら帰った。 (あんな映画観なければ良かった) きっとあの映画のような結末になる。あの映画のように、相手は女性と結婚して離れ離れになり結ばれる事などないのだ。 好きな人と結ばれても、いつか来てしまう別れを思うと怖かった。そんな思いをするのなら、最初からなかった事にすればいい。 好きな人に抱いてもらえた、いい思い出になったと、自分に言い聞かせる。 だが、そう思っても涙が止まる事はなく、自分のアパートに着くと声を押し殺して泣いた。 凛はその日のバイトを休んだ。 週明けバイトに入ると、智樹と体を重ねた次の日に自分を尋ねて来た智樹らしい男性がいたと聞いた。 そしてやはりその日の夜、智樹が現れカウンターにいた凛に、終わるのを待ってる、と言われた。 外に出ると自販機の前に智樹はいた。 「なんであの日、黙って帰ったんだ?」 凛はスッと息を吸い静かに吐くと、 「……満足したからです」 そう言った。 「満足?」 「あなたとヤれて満足したんです」 そう薄っすらと笑みを溢した。 「どういう意味だよ。俺と一晩限りだったって事かよ!俺はおまえと付き合いたいって言ったよな⁈」 智樹は凛の肩を掴み揺さぶった。 「そういう事は彼女と別れてから言って下さい。それに俺は……付き合うなんて言ってませんし」 智樹は絶望したように凛を見つめている。 「観たでしょう?あの映画。あの映画のように、同性愛にハッピーエンドなんてないんですよ」 凛はやんわりと智樹の腕を解くと、智樹に背中を向けた。智樹が凛を呼び止める事はなかった。 ポロポロと涙が溢れる。 (なんで俺は男なんだろう……) ポツポツと雨が凛の顔にあたると次第に雨は激しく降り始めた。 (そういえば、傘……) 結局、傘は智樹の家に置いて来てしまった。 それはまるで、自分の気持ちを智樹の部屋に置いてきてしまったように思えた。

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