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天気雨

なんとか身体を動かし物音をたてないように逃げ帰った和希は…知らないうちに泣いていた。 壮史のことを、幼馴染という言葉だけでは表せない、 それ以上の気持ちで見て、 欲しいと思ってしまっている自分に気付いた。 俺の物だと思ってたんだな… 好きだと言われたことなんかないくせに、 壮史も自分のことを好きだと思い込んでいたんだ。 あれほど告白されても誰とも付き合わないのは、 壮史の中に俺への気持ちがあるからだ、なんて思い上がりにも程がある。 でも、この気持ちはあの家族の誰にも知られてはいけない。 あの暖かい家族を壊すようなことを、俺がしていいわけがない。 これまで通り幼馴染でいるんだ。 これまで普通にできていた、これからもきっと出来る。 いや、やらないといけないんだ。 和希は壮史への気持ちを隠し通す決意を固めた。 1時間程がたったころ、壮史が部屋にやってきた。 宿題をしていた和希のすぐ隣によいしょと腰を下ろす。 壮史からボディーソープの匂いがして、和希の胸がぎしりと音を立てて痛んだ。 不自然にならないように壮史との距離をとると、 壮史が追ってきた。 「何?なんか警戒してるっぽく見えるけど」 「なんで壮を警戒しなきゃなんねーの、男同士だろ」 「そうだけど、男同士でも恋愛できるだろ」 「…は?」 イラッとしたのを隠そうともせずに和希は低い声を出す。 さっきまで女を抱き、抱いてきたことを無かったことのように振る舞える壮史。 隠し通すと決めたのに、不自然な行動がすぐに読まれてしまう不器用な自分。 …何故だかイライラが収まらなかった。

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