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誕生日のユウウツ
父親からの連絡に、これまでと同じように答えた。
「当日は用事がある」
じゃあ前日に、と父親が言うのもまた同じだった。
くだらない意地だとわかっていても、何を今さら父親ぶるのかという気持ちもある。
当日はもう何年も祝ってくれている相澤家に行くのだ、それを譲りたくなかった。
家族でもない自分の誕生日を毎年忘れることなく祝ってくれる。
大袈裟だけど、生きてきてよかったんだと思わせてくれる相澤家のもてなしが暖かく嬉しかった。
誕生日前日。
いつもより畏まった格好で有名ホテルにいた。
このホテルにくるのももう3回目だろうか。
レストランの入り口で名前を告げると、お連れ様がお待ちです、とこれまでと同じように言われ誘導される。
フランス料理のフルコースなんか食べた気がしない。
麻衣さんの料理が俺にとってのご馳走だ。
和希は固い表情を崩すことなく食事を終えた。
プレゼントだと渡された箱を開けると腕時計だった。
しかも結構高級な。
去年は確か万年筆だった、それも有名なブランドの。
和希は苦笑いしてしまいながら、父親にお礼を言った。
こんなに嬉しくないプレゼントもそうないだろう。
物に罪はないのに。
食事を終え、改めて礼を言い、帰ろうとした和希を父親が止める。
「ちょっと飲まないか?飲めるんだろう?」
親指を上に向けて言う。
ホテルの最上階にあるバー、そこで飲もうと?
和希はとうとう吹き出してしまった。
久しぶりの大笑いがこんなことなんて。
突然笑い出した和希に困惑した顔で見ている父親に、笑いを収めて和希は言った。
「ごめん、俺飲めないから」
じゃあ、また来年?にでも。
和希は皮肉も込めてそう言うと背中を向けた。
背中を向けたまま、一息で告げた。
「俺、ゲイだから結婚しないから」
小さくごめんと言ってからそのまま歩きだした…
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