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初心にかえる初詣
和希の講義が終わった後待っていた和田と一緒に和田の家に向かうことになった。
「どのくらい見えてんの?」
「うーん…ぼんやり」
「俺の顔見えてる?」
和田にぐいと顔を近づけた和希の肩を和田が弱く押し返す。
「み、見えてるよ」
和田の低い声が動揺を表すように揺れて聞こえた。
駅につくとちょうど帰宅ラッシュらしく人で溢れていた。
和希は和田の腕を掴むと自分の方に引っ張る。
「はぐれないようにして」
和田の路線に向かいながら和希は和田を振り返る。
人に押されるように電車に乗り込むと和田と向かい合わせに抱き合う形に詰め込まれた。
「ごめん」
「…うん」
和希が謝ると和田がほんの少し笑って答えた。
身長がそれほど違わないため顔が近い。
壮史のつけない香水の香りが人の熱気でむわっと起ち上がった。
次の駅でも人が乗り込み、二人の距離もさらに近づく。
近すぎて落ち着かない。
こんなラッシュの時間帯に乗ることもない和希は前後を人に挟まれる居心地の悪さに身体を捩った。
「戸川、あんまり動かないで」
「ご、ごめん」
和田の低く響く声が和希の耳に直接流れ込んで和希はびくりと揺れた。
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