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初心にかえる初詣

ブリーダーさんの家からの帰り、2人は途中のコンビニで飲み物を買い、すぐ近くの公園で休むことにした。 ベンチに座ると和希はプシュと炭酸のペットボトルを開けた。 「戸川、今日はありがとう」 和田がブラックのコーヒーを一口飲むと和希に言った。 和希がニコッと笑って見せると和田はホッとしたように口元を綻ばせ、コーヒーの缶に視線を落とした。 「父親がさ」 低く響く声が緊張していた。 「弁護士なんだ、割と有名な。 それで俺にも弁護士になって、自分の事務所に入って後々はそこを継げって子供の頃から言われてて」 和田がそこで和希の方をちらと見る。 聞いてるよとでも言うように和希はうんと頷いてみせた。 「何の疑問もなく弁護士になろうと思ってきたんだ。父親のことも尊敬してるし」 でも、と絞り出されるような一際低い声が和希の腹に届く。 「なんでも屋のバイトをなんとなく、いや、たぶん反抗心で始めてからこの仕事が楽しくて。 楽な仕事ばっかりじゃないけど、生活に密着した、役に立てる仕事が……」 止まってしまった和田を和希が覗きこもうとした時、和田が和希のほうを見た。 「……好きなんだ」 思いの外近くなっていた距離で聞く和田の低い声に和希の心臓がドクンと音をたてて鳴った。

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