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酒とスパイスのチョコレート

鍵穴に鍵を入れる音がし、和希の背筋がぴんと伸びる。 「ただいまー」 壮史がリビングに入ってくると和希は固まった笑顔を貼り付けながらおかえりと言った。 笑ってしまいそうになったのを嘘欠伸で誤魔化し着替えに寝室に入る。 あいつ、本当に隠し事が出来ない質だな。 コートを脱ぎハンガーにかけてクローゼットにしまいながら壮史は口角を上げる。 今夜は何やら楽しい事がありそうだ。 夕飯を済ませても和希は緊張したままで動こうとはしない。 和希のタイミングでと思っていた壮史だが、あまりにもガチガチになっている和希にきっかけを作ってやることにした。 「和希、これ母さんから俺らにって預かってきた」 実家に呼び出された壮史は麻衣からチョコレートを渡されて帰ってきていた。 高級感溢れる箱を開けると途端にチョコレートよりも酒の香りが強く漂う。 その香りを嗅ぎながら壮史の頭の中で素っ裸で淫らに喘ぐ和希が描かれる。 反応してしまいそうな下半身に若干腰を引きながら壮史は努めて平穏に和希に聞いた。 「和希は?くれないの?」 数日前に荷物を受け取っているのを壮史は知っていた。 それを隠すように慌ただしく寝室に消えた和希にも気にしてないフリをするのも忘れなかった。

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