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大人でも子供でも
「小降りになってよかったな」
和希のマンションの前で車を止めた西園寺がハンドルに凭れながら空を見上げる。
あの後西園寺に居酒屋に連れて行かれた和希は西園寺に勧められるままに食べ飲んだ。
若干足元の覚束ない和希を西園寺は車で送ってくれた。
元々送るつもりだったのだろう、居酒屋で西園寺は一滴も酒を口にしなかった。
腹一杯で飲まされた和希は酔ってはいるものの気分は悪くない。
「送ってくれて…ありがとう」
暗い車の中でもわかるほど和希の目が濡れている。
普段の和希にない色香を感じ思わず伸びた手を西園寺は拳を作って降ろした。
「おう、またな」
ふらふらとマンションに入っていく和希を見送り西園寺が深いため息を吐く。
「…欲求不満か」
携帯をとりだすと通話の履歴の一番上の番号をタップする。
「ハニー、今から行ってもいい?」
これからが大人の時間だ。
西園寺はニヤリと口角を上げた。
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