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切ない春休み

突然後ろから回る腕にびくっとしながらもそんなことをする人物は一人しかいない、和希はすぐに息を吐いて背中を預ける。 「ただいま」 「…おかえり。ごめん、気付かなかった」 「…………何かあった?」 壮史の優しい唇が項に押し当てられる。 それに甘えたくなり和希は壮史の方に身体ごと向いた。 背中に腕を回しながら壮史の首筋に頭を擦り寄せると壮史の唇が和希の耳にそっと触れる。 「甘えたい気分?」 「…………………………………………うん」 身体を少し離されたと思ったら壮史の顔が近づく。 暖かい唇が優しく重なると鼻の奥がつんとし、和希は顔を歪めた。 今の自分ならもっと優しくできる。 でも、たぶん今の自分が何をしてもただ彼女の傷を抉るだけになるのではないか。 和希は壮史の胸をそっと押し唇を離すとぎゅっと強く抱きつき顔を埋める。 壮史は何も言わず和希の身体を預かり、優しく背中や髪を撫で続けた。

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