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溢れる家族愛
張り詰めた空気を開いた玄関からの声がすぱーんと破いた。
「咲帰ったよー濡れ濡れだよーターオールー」
「咲がターオールー、だって」
追い打ちをかけるように圭が言うと赤坂が噴き出した。
和希は海の頭をぐりっと撫でて手を叩かれてから立ち上がり脱衣場からタオルを取り玄関に向かった。
「和希ちゃん!来てたの、お帰り!」
「ただいま、じゃない?咲」
「あ、そっかぁ!ただいまぁ」
髪を拭いてやりながら和希は咲の顔を覗き込んだ。
「お帰り」
はにかんだような笑顔の咲が和希を支えにして濡れた靴と靴下を脱ぐ。
「今豪が風呂入ってるよ、咲も一緒に入ってくる?」
「え?やだ!」
「え、嫌なの?」
「もー和希ちゃん全然わかってない!」
「ごめん?」
何がわかっていないのかわからないままだったが拗ねたように口を尖らせる咲に謝るとすぐに笑顔に戻った。
「いーよ。和希ちゃんだから許してあげる」
咲の背負っていたランドセルを受け取りながら脱衣場に向かうとちょうど豪が着替えて出てきた。
「咲、お帰り」
「ただいまぁ。豪も濡れ濡れたの?」
「ふっ、そう、濡れ濡れたの。咲も早くお風呂入っておいで」
「はーい」
咲の姿が見えなくなると豪が身体を屈めて和希の耳に顔を寄せた。
「ちっちゃい時からずぶ濡れが言えないんだよ、だから今も濡れ濡れ。かわいいからもうしばらくは濡れ濡れにしといて」
和希は思わず笑ってしまいながらうんと頷いた。
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