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第2話 明生の話(2)
塾の授業は3コマあって、コマとコマとの間の休み時間に、僕は都倉先生のところに行った。これだけのことだって、僕にとっては勇気の要る行動だった。
「先生。」
「おう明生、久しぶりだな、元気?」
「はい。先生、この塾の先生なんですか?」
「うん、9月からだから、まだ1ヶ月ぐらいだけどね。月曜日と水曜日の国語は俺だよ。時々他の教科もやるかもしれないけど、よろしくな。」
「えー、僕が塾に来るのは水曜日と金曜日だから、先生の授業が受けられるのは水曜日だけかぁ。」
「何、俺にもっと会いたかった?」
にこにこと笑う先生に、僕はドキッとして、つい「うん。」と正直に言ってしまった。
先生は「ありがとう、いやぁ俺、モテモテだなあ。菜月も俺目当てって言ってくれてるしな。」と言った。
「菜月、ここ、来てるんですか?」知らなかった。
「来てるよ。バッチリ俺に合わせて、月水クラスでね。あれ、でも、そう言えば今日は来てないな。」先生は先生用の出席簿のようなものを確認した。「ああ、今日は欠席の連絡が来てるね。学校は来てた? 同じクラスなんだよな?」
僕は今朝の出欠確認を思い出そうとした。「いなかったかも。今日、風邪で何人か休んでた。」
「そうか。お大事にって伝えておいて。」
「休んでるから、言えないよ。」
「あはは、それもそうか。」
僕はいくつかの理由で非常に気分が悪かった。
ひとつ、菜月が抜け駆けしていたこと。
ふたつ、菜月が僕のことを先生との話題にしたこと。そう思う理由は、先生が僕と菜月が同じクラスだと知っていたから。そして、菜月はその時に僕の悪口を言っていた可能性が高い。何故なら、菜月は学校の男子に対してはすごく厳しいから。
みっつ、先生が菜月を菜月と呼び捨てにしていること。水泳教室の時は、呼び捨ては男子だけで、女子のことはちゃん付けだったのに。
よっつ、僕も月水クラスに移りたいけど、月曜日は、国語なら作文、算数なら応用編の問題集をやったりする難易度の高いクラスで、僕にはそのクラスに入るほどの実力がないこと。
いつつ、先生の耳に、何やらピアスが光っていたこと。水泳教室の時にはそんなものはつけていなかった。
「先生、ピアスしてるんですね。」
「あ、うん。この塾、そういうの割と緩いから。」
「プールん時、してなかった。」
「プールは、アクセサリーは基本禁止だからね。」
「なんかチャラい。」
「よく言われる。」先生は明るく笑った。僕にチャラいと言われたって、全然、なんとも感じないんだ。当たり前だけど、なんだか口惜しい。そんな僕のイライラを知ってか知らずか「ほら、そろそろ次の授業の準備しな。トイレは大丈夫か。」と先生が言った。
トイレの心配なんかしてくれなくたっていいよ、まったく。そんなことよりも。
……そんなことよりも?
僕はその時、自分が「そんなことよりも」何をしてもらいたいのか、わからなかった。
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