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第8話 王様の耳は(4)

「ん?」涼矢さんは優しく笑いかけてくれた。 「都倉先生は、授業も、最高です。分かりやすいです。」 「明生くん、ステーキでも食べるかね?」先生はふざけた口調でそんなことを言い、メニューを広げた。「おっと残念、ここにはステーキはなさそうだ。いちばん高級なのは、えーと、デラックスフルーツパフェ。あまおうを丸ごと1個トッピングだって。これ、食べるかい?」 「和樹、おまえ本当にノリがオジサンになっちゃってるよ。今時ごちそうがステーキって。」涼矢さんが笑う。 「うっせえな、今だってステーキはごちそうだろ。俺はね、涼矢みたいなブルジョワとは違うんだよ。なあ明生、このお兄さんね、金持ちなんだよ。ここはこの人に奢ってもらおうな。」 「奢るのは構わないけど、明生くんにカッコいいとこ、見せられないよ。いいの?」  涼矢さんは真顔でサラリとそんなことを言った。本当にお金持ちなんだろうか。 「あ、僕が払いましょうか。今年の親からの誕プレ、現金だったから、ここの分ぐらい、払えますよ。」  僕の渾身のボケはこんなものだ。でも、2人とも笑ってくれた。  そんな風に3人でしゃべったり笑ったりしていると、あっという間に1時間以上が過ぎた。 「俺、トイレ行ってくる。」先生が立ちあがった。  残された涼矢さんと僕。涼矢さんが、ポケットからスマホを出した。「明生くん、自分のスマホ持ってる?」 「はい? ああ、はい。」僕はバッグからスマホを出した。中学に入ってすぐ、買ってもらったスマホ。 「連絡先、交換しよ。」 「え。」 「王様の耳はロバの耳って叫びたくなったら、連絡して。」 「……え?」  涼矢さんは勝手に僕のスマホをいじり、連絡先を追加したようだった。 「親にも友達にも和樹にも言えない、でも、誰かに聞いてもらいたい。そういうことがあったら、いつでも。」 「……。」 「役に立つアドバイスなんかできないけど、気持ちの吐け口ぐらいにはなれると思うんで。」涼矢さんは僕のスマホを返してきた。この時は、あまり、優しくない表情だった。 「……言ってる意味がよく分かりません。」僕は正直な気持ちを言った。 「それならそれでいいよ。ま、なんかあった時に思い出して。」涼矢さんはまた優しい顔に戻った。  先生が戻ってきて、会計を済ませてくれた。お店を出たところで、僕は先生たちと別れた。しばらく歩いてから振り向いて、並んで歩く2人の後ろ姿を見た。涼矢さんは先生よりも少し背が高い。足も長くて、スタイルは先生よりも良いかもしれない。そうか、あの人が、先生の好きな人か。

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