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第17話 告げ口(2)

 僕は家に帰ると、お母さんに夏期講習のことを話した。実は、夏休みにまで勉強したくないというのも僕の本音で、だから親には塾で配られたパンフレットすら見せてなかったんだ。案の定、「〆切ギリギリになってこんなものを持ってくるなんて。」と怒られた。その上、全タームに出るようにと言われてしまった。お金かかるよ、僕まだ1年なんだし、今からそんなにフル稼働しなくても……と言ってみたけど、「どうしてそう、やる気がないの。部活もしてないくせに。」と余計怒られただけだった。そう、僕は帰宅部。かといって部活以外に夢中になる趣味もない。これで成績が良ければ親も文句は言わないのだろうけど、ぎりぎり平均といったところ。  自分の部屋で、僕は涼矢さんにメッセージを送った。 [昨日はありがとうございました。今日塾で先生に会ったけど普通に話せました] [よかった]の後に、ニコニコマークがついた返事がすぐ来た。 [先生は夏休み、里帰りするんですかね?] [知らない] [そういう話、しないんですか] [教えない] [ひどい(笑) 先生、8月6日~9日と、21~24日は東京にいるはずです] [なんで] [夏期講習だから。僕も先生も。僕は7月にもあるけど(涙)] [なるほど] [僕、スパイ2号ですね] [そうだね、心強いよ(笑) よろしく頼む] [了解!]  うん。親に怒られて落ち込んでいた気分も無事に浮上。ついもっと話したくなっちゃうけど、メイワクかけたらいけないと思って、今日は、ここまで。  2日後の塾の日には、夏期講習の申し込みを済ませたことと、全タームを受講すると知った先生が喜んでくれたことを知らせた。  その次の時には、先生が髪を切っていたこと、菜月が前の髪型のほうが良かったと言っていたこと、でも、その菜月は今月で塾を移ることになっていて、先生は淋しがっていることを。  そんなことをしているうちに、いつの間にか、塾がある日には涼矢さんにメッセージを送るのが習慣になった。  最初のうちは、そういう、先生についてのスパイ活動報告をしていたけれど、そう毎回何かあるわけもないので、学校で流行している遊びの話や家で飼ってる猫の話といった、涼矢さんにとっては本当にどうでもいいに違いない内容も書くようになった。それでも涼矢さんは必ず返事をくれた。でも、いよいよネタがなくなって送らないでいたら、「今日塾の日だよね? 風邪でも引いたの? 大丈夫?」と、涼矢さんのほうからメッセージが届いた。 [元気です。特に書くことなかったから。いつもくだらないことばかり書いてすいません]  そう返事した。すると、 [体調崩したんじゃなくてよかった。月水金は明生くんからのメッセージ楽しみにしてるんだ]  と、返ってきた。涼矢さん、良い人だなあ……。  その点、都倉先生ときたら。  もう、白々しいぐらいに、僕と距離を置くようになった。ほかの人から見れば、今までの態度と変わっていないように見えると思うけど、僕にははっきり分かる。僕をちゃんと見るのは授業中に指す時だけ。帰る時なんか、僕が「さようなら」と挨拶しても、書類を見てるふりしてこっちを見もしないで「はーい、おつかれさん」って、気持ちのこもってない、適当な返事。こっちから勉強のことで質問すれば教えてはくれるけど、前にはしていた脱線した雑談はしなくなった。昨日なんか、ついに、授業で指名する時に「塩谷くん」って呼んだんだ。

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