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第20話 告げ口(5)

「ですね。」 「一人? 買い物?」 「一人だけど、買い物じゃないです。さっき講習終わって、ただ、ブラブラしてただけ。」 「ああ、そっか、講習、今日からだもんな。しっかりやれよ。」 「先生も一人?」 「いや、ほら……あれ?」先生は周囲をキョロキョロと見まわした。「ああ、いたいた。おい、ポン太。」少し離れたCDショップの店頭に、派手な人がいたけど、その人は違うだろう……と思ったら、その派手な人が慌てて飛んできた。金髪で、すっごい数のピアスしてて、ダボダボの服を着てる。 「サーセン。今日発売のやつ、見つけて。」見た目通りのしゃべり方で、その人はヘコッと顎を出した。謝ってるポーズのつもりなんだろうか。 「買っていく?」 「や、地元のショップで予約してあるんで。今日発売って忘れてたっす。帰ったら取りに行かなきゃっす。」  僕がボーゼンとその金髪を見ていると、ギロリと睨んできた。怖い。でも、すぐにヘラァ~と笑って「ちっす。」と言いながらいきなり僕の頭をぐりぐりしてきた。ゴツい指輪があたって、痛い。「和樹さん、このガキ、誰すか?」 「生徒さん。今、俺、塾の先生やってて。」 「へええ。おまえ、偉いな。ショーボーなのに塾行ってんのか。」  ショーボー…ああ、小学生ってことか。「僕、中学生ですけど。」 「チューボーか。でもやっぱ偉いな。俺、ベンキョーなんてハタチ過ぎるまでやったことねえもん。」 「今おまえ18だろ。」先生のツッコミに、金髪は「アハハハ。」と笑うだけだった。馬鹿なのかな、この人。ん? 馬鹿? 「この人はポン太。こういう人にならないように、ちゃんと勉強しろよ。」似たような話を、つい最近聞いたような。 「ひでっすよ。だからこうして、ちゃんと専門学校行こうとしてるじゃないっすか!」 「そうだね、偉いねー。」 「棒読みっす!」  この状況に頭がついていけずに、僕はただ突っ立っていた。ポン太と呼ばれた金髪の人が「ギターを作る人に、俺は、なる!」と某アニメのテンションで言い、拳を上げてポーズを取った。 「そういうわけで、彼は涼矢の幼馴染で、東京の専門学校に入りたいらしく、下見がてら東京に来て、なんでだか俺が面倒を見させられているところです。」間違いない、この金髪、例の「涼矢さんの弟分」だ。「すっげえ馬鹿」なんて、ひどい言い方だと思ったけど……そう言われても仕方ないかも、なんて、思っちゃう。 「和樹さんのダチっす。」 「ダチじゃない。おまえは涼矢の舎弟であって、俺とは何の関係もない。」 「何言ってんすかー。このイカしたピアスできんのも、俺が穴開けてあげたおかげじゃないっすかー。あんとき、和樹さん超ビビってておもしれかったー。」 「ポン太、おまえ教育上よくないわ。もう行こう。」 「その人と出歩いてるとこ見られたら、また先生らしくないって、教室長に怒られそうですもんね……。」 「まったくだ。……って、んんっ?」先生が僕を見た。「なんで知ってんの。」  やばい。しまった。口が滑った。涼矢さんから聞いた、内緒の話だった。 「じゃ、僕、用事があるんで失礼しま」そそくさとその場から逃げようとしたけれど、「ブラブラしてるだけって言ってただろうが。」と、あっさりつかまる。 「塩谷くん? ちょっと話しようか。きみの好きなチーズケーキごちそうしてやるよ?」 「俺、チーズケーキ、苦手っす。茶色のはいいけど、白いのはちょっと無理系っつか。」 「おまえには聞いてない。それとベイクドとレアぐらいは知っておけよ。」  先生に引きずられるように、涼矢さんと行ったあのカフェに連れて行かれた。  前回と同じく、片側がソファ席の4人席に案内され、ポン太さんは遠慮することなくソファ席に陣取った。この間は涼矢さんと僕がソファ席に並んで座ったから、今回はポン太さんの隣に座るべきなのかなとか考えていると、先生がそこに座った。なんとなく、僕をポン太さんの隣に座らせたくないようだ。結局、僕は先生と向き合う椅子席に座った。

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