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第21話 告げ口(6)
「チーズケーキセットでいい?」
「お、お茶だけで結構です。できれば、アイスティーを……。」僕はビクビクしながら言った。
「俺はこのデラックスフルーツパフェがいいっす。」
「おまえには聞いてねえ。それと、それはダメ、高いから。ポン太は500円以下のやつな。」
「どうしてチューボーはケーキセットで、俺はワンコインなんすか。」
「おまえには昼飯食わせてやっただろ。」
「牛丼なんかワンコイン以下じゃないっすか。しかも地元にもあるっすよ! もっと東京っぽいのが食べたいっす。あ、じゃあこの、ベリーミックスパンケーキっての。650円だけど、500円に近いからいいっしょ? セットじゃなくて良いんで。水で良いんで。パンケーキって女子に人気のアレっすよね? こういう、フォトジェニックなスイーツが流行りってテレビで言ってたっす!」
「おまえ、フォトジェニックの意味、わかってんのか?」
「わかってねっす!」
「……もういい、それ頼んでやるから、黙ってろ。で、明生も遠慮せず食べな。」
「じゃ、プリン……。」
「何、一番安いの選んでるの。明生さ、何か俺に後ろめたいことでもあるわけ?」
「……。」
「あるんだよね?」
その時、店員さんが来て、先生はプリンとアイスティー、ベリーミックスパンケーキ、そしてコーヒーを注文した。先生、何も食べないつもりじゃん……。怖い。
「明生。」いよいよ、始まった。「この間から、ちょっと冷たい態度取ってたのは悪いと思ってるよ。それをおまえが気にしてるのもわかってた。」
「いえ、別に……。」
「その理由のひとつは、まあ、例の件な。それも関係ないとは言わないけど、一番は、教室長に言われたからだよ。おまえがさっき言ってたの、それだろ。」
「……。」
「で、問題は、どうして明生がそれを知ってるのかってこと、だよな?」
「そんな気がしただけです。急にみんなのこと、なんとかくんとか、なんとかさんとか呼んだりして。でも、他の先生もそう呼ぶから、先生たちの間で、そういうルールがあるのかなって。」
「だったら、そんな風にビクビクする必要、ないよね?」
「ビクビクなんて……ちょっと緊張してるだけです。ひ、人見知りなんで。」僕はチラリとポン太さんを見た。ポン太さんは貧乏ゆすりしながら、ぼーっと窓の外を見てる。何も考えてなさそう。
「その割には、涼矢とはすぐ打ち解けてたよな。」
「涼矢さん? 涼矢さんと、このガキ、知り合いなんすか。」突然ポン太さんが割り込んできた。さっき自分が「涼矢の幼馴染」って紹介されてたの、聞いてなかったのかな。
「おまえがしゃべるとややこしくなるから、黙ってて。あ、ちょうど、パンケーキ来たよ。それ食べて大人しくしてな。」
「うほっ、うまそ。」ポン太さんはスマホでバシバシ写真を撮り始めた。ベリーミックスパンケーキは、この間先生が食べていた、いろんなベリー類が載っている、あれだ。「すっげえリア充っぽい画像っす。東京っぽいす。女子ウケよさそっす。アップしなきゃ。」
「そう、それがフォトジェニックということだ。」
「そうなんすか!」この人、どこまで理解してるんだろう。
僕の前にもプリンとアイスティーが置かれた。先生がコーヒーを一口飲むのを見届けてから、僕はアイスティーをストローで飲んだ。喉がカラカラだったから、一口だけのつもりが、一気に半分近くまで飲んでしまった。カラカラなのは、もちろん暑さのせいだけじゃない。先生がこっち見てる。ああもう、緊張するなあ……。
「教室長に注意された話って、涼矢にしか言ってないんだよ。あんまりバイト先の愚痴とか言わないようにしてるんだけどさ、その時だけ、チラッとね。」
「はあ……。」
「それをおまえが知ってるってのは、つまり?」
「……。」
「涼矢から聞いたの?」
僕は観念して、頷いた。ごめんなさい、涼矢さん。スパイ失格です。
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