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第22話 告げ口(7)

「何、2人でコソコソ連絡取り合ってんの? つか、なんで涼矢の連絡先知ってんの。」 「ここで前に会った時に……連絡先交換しようって言われて。」 「ふうん。まあ、別にいいんじゃない、それは。ただ、なんでそれを、俺に隠すのかなあって思うんだけど。」 「和樹さん、ガキ相手にそんな威嚇したらダメっすよ。ビビってますよ。」 「ポン太は黙って……、いや、今のはおまえの言うとおりだな。悪い、明生。」 「おめぇもさ、気にする必要ねえから。和樹さん、ホントはすげー優しい人だから。」意外なことに、ポン太さんがフォローしてくれた。ポン太さんは、先生の肩をガシガシ叩きながら、「ね、和樹さん、アレっすよね、ちょっとした、ヤキモチ的な。」  その瞬間だ。先生が真っ赤になった。 「このガキと涼矢さんが自分の知らないとこで仲良くしてるのがおもしろくないっつー、それだけっすよね! マジで怒ってるわけじゃないっすよね!」 「余計なこと言うなよ、黙ってろって。」先生は真っ赤な顔のまま、ポン太さんを睨んだ。まさか、ポン太さんの言ってることが、図星? 先生が、僕に、ヤキモチ?  ポン太さんはプーッとふくれ、僕は謝った。「ご、ごめんなさい。」  先生は腕組をした。「どうせ涼矢が言い出したんだろ? 連絡先教えろって。」 「あ、はあ、まあ……。」 「へー、涼矢さん、こんなガキをナンパするんすね。」 「違うっつうの。あいつは、こいつがちょっとしんぱ……」言いかけて、そこでやめた先生。 「そうです。」僕は言った。「僕のこと、心配してくれてたんです。でも、ずっと連絡しませんでした。あの、菜月の誕生日の日に、初めて電話しました。それから、時々、話を聞いてもらったりして。でも、最近は、本当にどうでもいい話ばっかり。うちの猫のこととか。だから、ヤキモチ焼かれるようなことは何も……。」 「当たり前だろ!」この間豹変した涼矢さんと同じように、先生も急にそんな言い方をした。先生と涼矢さん、全然違うのにこんなところだけ似ている。 「ごめんなさい、先生に黙ってて。でも、涼矢さん、すごい優しくて、お兄さんみたいで、つい、甘えちゃって。」 「うん、まあ、どうしてそういうことになってんのかの想像はついてるよ。とにかく、俺に言えないようなことはするなよ。」 「はい。」 「プリン、食べれば。」 「はい。」僕は生ぬるくなったプリンを食べた。 「ちょ、和樹さん。」ポン太さんがまた先生の肩をガシガシ叩いた。 「黙ってろって。」 「いや、ほら、噂をすればの涼矢さんですよ。」スマホの画面を見ている。「さっき俺がCD屋で見てた新譜、良かったって。うわー、もう聴いたんだ、いいなあ。さっすが涼矢さんすよね!」 「今何してる?って聞いてみて。」先生がポン太さんにそう言うと、ポン太さんは「ういっす」って言って文字を打ち込んだ。  返事はすぐ来たみたいだ。「えーと、家で勉強してるって。やー涼矢さん、まだ勉強してんすか。大学入って、まだ勉強すか。信じらんねー。勉強しながら新譜聴いたみたいっす。うわー、俺もCD予約しないでダウンロードにすればよかったかなー。」 「今、俺と明生と一緒にいるって送って。さっきのパンケーキの画像と一緒に。」 「ういっす。えと、いま、かずきさんと、あきおといっしょにいます。で、画像、と。」ポン太さん、スマホの入力、異常に速い。女子高生みたい。「あきおって誰すか。」 「だから、この子。」 「あ、そっか。」今更何言ってるんだろう。謎な人だ。  その時だ。誰かのスマホのバイブ音がした。僕じゃないし、ポン太さんでもない。 「はいはーい。」先生はわざとらしいほど明るい声で電話に出た。「うん、そう。楽しくお茶してるよ。思い出のカフェで。」相手は……聞くまでもないだろう。「なんか、俺の知らないところで、うちの生徒がお世話になったみたいで、俺からもお礼を言うよ。」こ、怖い……。「俺が無理に聞きだしたんだから、明生のことは怒らないでやってよ。え? 俺? ぜーんぜん怒ってないって。」嘘だ。絶対、嘘だ。「そう、ポン太も一緒。もう、明生のやつがさ、ポン太みたいなの連れてるのを教室長が知ったら、また怒られるんじゃないかって、俺のこと心配してくれてさあ。ホント、明生は優しい奴だよねぇ。」  帰りたい。

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