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第24話 里帰り(1)

「じゃ、この話はこれでおしまい。」 「なんかかっくいーすね、和樹さん!」 「……ポン太、おまえは黙ってるってことができないのか? もう、一人で帰れ。」 「ひどいっすー。一緒に帰りましょーよー。俺、一人で新幹線乗れないっすよー。」  ポン太さんの言葉に僕はビクッとする。「帰る?」 「うん。こいつを送りがてら、帰省するんだ、これから、この足で。」 「そうですか。その割には荷物、ないですね。」 「実家に帰るだけだからね。あとはお土産買っていくぐらい……あ、そうだ、このへんでお土産になりそうなもん、あるかな。」 「食べ物?」 「そうだねぇ、地方にはあまりない感じのお菓子とか。」 「地方で買えるかどうか知らないけど、ドラ焼きが有名なお店なら知ってます。つきみ屋って和菓子屋さん。」 「お、いいね。どこ? こっから近い?」 「えーと、今P商店街でしょ、駅の反対側、北口に出たら、右斜めの方に進むとあります。ここから7、8分で行けると思います」  僕の説明を聞きながら、スマホで地図を確認する先生。「OK、わかった。そこ行ってみるわ。サンクス。」  僕でも先生の役に立てることがあって、嬉しい。嬉しいけど、そっか、先生、帰省しちゃうんだ。 「そんな顔するな。」と言われて、淋しがっていたのが顔に出てたことを知る。恥ずかしい。「明日の講習もがんばれよ。」と先生。 「はい。」 「次に会うのは、俺のタームの時だな。」 「はい。」 「涼矢に伝えたいことある? あ、わざわざ俺を通さなくてもいいのか。」  先生が皮肉めいたことを言う。なんか性格悪いな、先生……。何が「この話はおしまい」だよ。ついさっき、僕を思い切り振ったってこと、忘れちゃってんのかな。その上、何度も謝ってるのにさ、こうしつこいと、こっちもやり返したくなるってもんだよね。「久しぶりに会えるんでしょ。お邪魔でしょうから、先生が東京に戻るまで連絡しませんよ。僕のことなんか忘れて、再会のチューでもなんでも、好きなだけイチャイチャすればいいですよ、もう!」  先生は真っ赤になって、「あ、あきっ、何言って……」と、焦っている。 「アハハハ、とんだエロガキっすね、こいつ!」ポン太さんがそう言って笑うと、先生はますます赤くなった。いい気味だ……なんて、ちょっと、思っちゃう。 「ごちそうさまでした!」僕はそう言ってお辞儀をすると、さっさとカフェから逃げ出した。  家に戻ると、涼矢さんにメッセージを送った。ひたすらゴメンナサイって。気にしてないから、明生くんも気にしないで、と返ってきた。 [先生、今日これからそっちに帰るって言ってました ポンタって人と一緒に] [うん そうみたい こっちに着くのは夜になりそうだね] [ポンタさんておもしろいですね 最初見た時、ちょっとこわかったけど] 僕はなんとなく先生の話題を避けた。 [(笑)] [ギター作る人になるって] [ポン太、3年ぐらいバンドやってて、地元じゃそれなりに人気も出たんだけど、プロとしては食べていけそうにないから技術を身につけたいとか言ってた ギター作る人とは知らなかった あいつにしてはちゃんと考えたんだな] [涼矢さんは何になりたいって決めてるんですか] [弁護士] [すごい] 目指してるのもすごいけど、それをサラリと言えるのがすごい。 [すごくないよ 目指すのは誰でもできる がんばるけど] [がんばってください!] [ありがとう]  そんなやりとりをして、本日は終了。結局先生にバレた話はうやむやになっちゃったけど、どうせ今日にも2人は直接会うんだろうから、僕の出る幕はない、と思う。  そっか。今日、会うんだ。たぶん直接会うのは5月の連休の時以来なんだろう。2人とも、楽しみにしてただろうな。それを僕が口を滑らせてしまったばっかりに、こんな風になって、悪いことしちゃったな。……でも、まいっか。だって僕は振られてカワイソウだけど、あの人たちは両想いなんでしょ。僕が気ぃ使うことない! ないない! 「ね?」と僕は机のお兄ちゃんの写真に語りかける。でもな、お兄ちゃんは赤ちゃんのままだから、こういう、レンアイのことは、ちょっと、わからないかもしれないね。

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