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第25話 里帰り(2)

 その後夕飯を食べて、お風呂に入って、テレビを見ていたら、お母さんが「夏休みだからってダラけないの。宿題も早めに済ませなさいよ」と言った。  宿題。そうだ、学校の宿題ももちろんあるけど、夏期講習の宿題は、明日早速授業で使うんだった。僕は珍しく素直に自分の部屋に戻って、宿題を始めた。  英語やって、国語やって、最後の数学に取り掛かった時、スマホが鳴った。画面を見たら、僕が部屋にいない間にもメッセージは何件か来ていたみたいだ。友達からのもあったし、スタンプ欲しさに登録したどこかの企業からのもあった。それを見ていたら、また新たにメッセージが来た。涼矢さんだ。  おそるおそる開いてみると、文字じゃなくて、画像だった。先生と涼矢さんのツーショット。……自慢なのか、仲直りしたから安心して!という意味なのか。涼矢さんのことだから、自慢ではないと思うけど。それにしたって、ちょっと微妙だよね、これ。僕が2人の仲良さげなところ、見たいと思ってるんだろうか。ま、つまり、そのぐらい僕なんかライバルとも何とも思われてなくて、「かわいい教え子か後輩」ぐらいに思われてるってことだ。当たり前だけれどね。写真の2人は、さすがにいちゃついてるわけじゃない。でも、なんだか嬉しそうではある。はいはい、リア充ですね。ふん。  画像の後に「宿題やったか」という文字。アカウントは涼矢さんだけど、先生が入力したのかな。そういえば、先生とは連絡先交換、してない。 [今の、都倉先生が送ったんでしょ]と送信してみた。 [送れと言われた]と返信。どうやら、カフェでのポン太さん同様、先生が指図して送らせたらしい。 [たのしそうでいいですねー]と送る。 [ポン太とポン太の兄貴も一緒だよ] [なんだ、2人きりじゃないんだ かわいそ] [変なこというと また怒られるから] [おこられたんだ] [怒られました] [僕のせいですね すいません] [気にしないで と言いたいところだけど 今も隣で怒りだした 「怒ってない」って言いながら怒ってる] [(笑)] [明生くんにだけ 宿題たくさん出すから楽しみに だって]  そんな調子で、いつも通り冗談とか言い合いながらやりとりできて、僕はホッとした。これで涼矢さんとまでギクシャクしてしまったら、ある意味、先生に嫌われるより、ショックかもしれない。もう、今では涼矢さんは僕の気持ちの避難場所みたいになっていたから。だから、先生が涼矢さんとの連絡は続けていいって言ってくれた時、内心、すごく嬉しかった。喜び過ぎると、また先生がすねるから、あまり顔には出さないようにしたけど。ほらね、僕ってすっごく気を使ってるじゃん! なのに、この人たちは、僕をなんだと思ってるんだろうね。まあ、僕自身、自分がどういうポジションでいたいのか、よくわかんないんだけど。僕がアイドルみたいに先生が好きだとしたら、僕は、そのファンってところか。まあ、それでもいっか。僕は、スパイ2号改め、先生と涼矢さんのファンクラブ会員番号1番だ。今の僕には、そんなところがちょうどいい。  その後もしばらく会話した。それによると、先生、今夜は涼矢さんちに泊まるらしい。帰省って、自分の実家に帰るものじゃないのかなあ。  うーん、こういうことは、あまり深く考えないようにしよう……。

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