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第30話 里帰り(6)
「俺のカテキョの先生は男だよ、チクショー。」とアツシが吠えた。
「俺の塾にもこんな先生、いねーな。」
「普通、いねーよ。」
「明生って菜月と同じ塾だっけ。」とカケルが聞いてきた。
「前は。菜月、今は別の塾に変わった。」
「なんか騒いでたじゃん、塾の先生にすげーイケメンがいるんだって。」
「えっ、あっ、そんなこと言ってた?」ついさっきまでその人のことを想像してナニがアレしていた僕は挙動不審になる。
「言ってた言ってた。あいつ声でかいから女子同士でしゃべっててもすぐわかる。」
「最近おとなしいけどな。」
「そういやそうだな。」
「菜月は結構可愛いよな。そのイケメン先生となんかあったりしねーの。」
「チョコあげてた……けど、それだけ。先生にはつきあってる人いるし。」これは僕の発言。誕プレ交換のことは言わなくていいだろう。菜月も言わないでくれって言ってたし。
「イケメンなんだろ、そりゃいるよなー。チューボーの女なんかいくら可愛くても相手になんねえよな。イケメン、まじコロス。」
「美人の先生とか生徒はいないの? その塾。」
「美人……は、いないな。ていうか、男の先生ばっかで事務のおばさん以外は女の人いない。生徒も、そうだなあ、菜月が一番可愛かったレベル。」
「でも菜月も今は違う塾なんだろ。つまんねーな?」
「別に、可愛い子目当てに行ってるわけじゃないし。」 イケメン目当てではあるかもしれないけど。
「明生って好きな子、いないの? 菜月が好きなんだと思ってた。仲良いし。」とカケル。さっきからやたらと菜月のことを言ってくる。たぶん、カケルが菜月が好きなんだろう。
「違うよ。そんなに仲良くもないよ。小学校から知ってるし習い事で一緒だったりしたからそう見えるかもしれないけど、そんだけ。」
「そのイケメン野郎が本当に好きなのかな。でも、だったら塾変わらないよな。」カケルはまだ菜月ネタから離れない。
「先生には憧れてただけだと思うよ。ジャニーズのファンと一緒。」僕もそうだけど。
「でもさ、ファンに手を出す芸能人だっているし、変なエロ教師とかよくニュースになるじゃん。その、イケメン先生がその気になったら、菜月、アブねーよな。」
「そんな先生じゃない。」思わず食い気味に言ってしまってから、思ったより強い口調になっていたことに気が付いた。カケルをはじめとして、みんなが僕を見た。
「今日の明生、なんかいつもと違わね?」とハルトが言った。「すげー強気っつうか。」
「イライラしてる?」とカケル。
「し、してないよ。普通普通。悪い、なんかさ、夏休みなのに塾の講習とか結構いっぱいあってさ、それでちょっと疲れてはいるかもしんない。」
「そっか、大変だな。」とアツシは素直に納得してくれた。
「たまには息抜きに、カケルんちでエロビデオ見ようぜ。」とハルト。
「おい、勝手に決めんなよ。」カケルが笑った。
夏休みの1日、僕たちはこんな風にバカバカしくも楽しく遊んだ。楽しい出来事だったから涼矢さんに教えたいところだけど、内容が内容なだけに、やめておくことにする。特に、ミヤビとケントの話を、涼矢さんと先生に重ねて想像しちゃったあたりを、うまく隠しおおせる自信もない。
夜、布団に入ってから、僕はこのことをもう一度思い出してしまった。5日も経てば夏期講習の中期が始まる。その時までには都倉先生は東京に戻ってきているはずだけど、今はまだ実家だろう。今、先生はたまにしか会えない恋人との時間を、めいっぱい楽しんでいることだろう。そうだったらいいなと思う気持ちと、なんとも言えないイライラした気持ちが、僕の中でぐるぐるしてる。今日友達にイライラしてる?って言われたのは、だから、半分はその通りなんだ。
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