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第32話 ただいま(1)
数日後。明日から夏期講習の中期が始まるという日の前夜。涼矢さんからメッセージが来た。先生が帰省した日の夜以来のことだ。久しぶりだね、元気だった?といった挨拶を済ませた後、いよいよ先生の話題になる。顔が見えてるわけじゃないけど、緊張がバレやしないかと思って、逆にまた緊張が増す。
[和樹は今日の昼頃にはこっちを出たから、もう東京にいるよ。明日から明生くんと講習だね]
[はい] いろいろ考えた挙句に、これだけ返信した。
[どこか行ったりした? 家族旅行とか]
[お母さんの実家に行ったけど、都内だから日帰りで。旅行は今年しなさそう]
[そっか ディズニーランドとか行かないの 明生くんちからだったら近いでしょ]
[1時間ぐらいで行けます ディズニーは友達と行こうって言ってるんだけど なかなかみんなと都合が合わないし 親は7時までに帰ってこいとか言うしどうしようかなって感じ 涼矢さん行ったことありますか]
[あるよ 小学生の時は年に1回は行ってた 親がTDR好きで。その後は高校の修学旅行かな]
[先生と行ったことはないの?] と送信してから、やべっと思った。どうして自分から先生の話題、振っちゃったんだろう……。
[ない 同じ高校だから修学旅行は一緒だったけど、グループが違ったから]
[その頃はまだつきあってなかったんですか?]
[うん]
[いつから?] やべっと言いつつ、知りたくて、ついつい質問を重ねてしまう僕。
[卒業間際]
[そうなんだ! でも、そしたらすぐ遠距離ですよね? 知らなかったんですか? 先生が東京に行っちゃうこと]
[知ってたよ]
[どっちから告白したんですか]
[俺] 涼矢さん、嫌がるかと思ったら、意外となんでも答えてくれるなあ。
[なんて言ったんですか?]
[別に 普通に 好きです って]
[えええー] これ、リアルに声も出た。
[えええー だよね]
[はい それで、先生も すぐOKだったんですか?]
[NGでした]
[でも、つきあうことになるんですよね?]
[そうですね]
[NGからOKに変わったのは いつ なぜ]
[さあ いつなんでしょう]
[ごまかされた(笑)]
[いや そういうのってそんなにはっきりわかるものでもないというか まあいいじゃないですか] 涼矢さんは何故かさっきから「ですます調」だ。恥ずかしいのかな。
[涼矢さんは、僕たちはつきあってるんだーって いつから思えたんですか]
[まだ聞きますか(笑) それは難しい質問ですね]
[難しいですか 「キスした時から」とかじゃないんですか?]
[この間からキスにこだわるね]
[こだわってるわけじゃないけど 同級生が そんな話をしてて]
[ませてるな そんなこと考えてないで勉強しなさい と言われても無理だよね(笑)]
[無理ですよ(笑) でも、特に男同士だと、2人でデートに行ったって、友達と遊ぶのとやることは変わらないし だったら友達とは違うとこって、そういうことをするかどうかなのかなって]
[あー そうだね それだけじゃないけど そういう面があることは否定できない]
結局はっきりとは答えてもらえなかった。でも、僕はそれ以上涼矢さんを質問攻めにするのはやめた。聞きたいことはまだまだいっぱいあったけど、せっかく涼矢さんはこんな失礼な質問にも怒らないで答えてくれてるのに、だからってこれ以上聞くのは悪い気がした。このままこんな質問を続けていたら、先生の言ってた「涼矢を傷つけるようなこと」をしかねないとも思った。
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