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第37話 ヴェール(2)

「おまえら何の話してんだよ。」 「僕は2人でディズニーデートしたら?って言ったんです。」 「俺は明生くんと一緒に行きたいと言ったんです。」 「先生と涼矢さんがペアルックしてくれるならいいよって条件を出したんです。」 「3人でお揃いだったらいいよって言ったんです。」 「……きみたち、仲良いね。」僕たちの掛け合いを見て、先生が呆れたように言った。 「で、ミニーの耳、つけてくれる?」涼矢さんが先生に言う。何故、そんなセリフを真顔で言えるんだろう。 「やだよ。せめてミッキーだろ。」 「OK。じゃあ和樹はミッキーだ。てことは、俺がミニーでいいんだな?」 「えっ?!」僕と先生が同時に言った。 「明生くんはどうする? そうだ、2人でミニーにして、和樹ミッキーを取り合うとしようか。」涼矢さんは引き続き真顔でそんなことを言った。 「明生、涼矢ね、勉強のしすぎでたまにおかしなこと言うけど、気にするなよ。聞き流せ。」 「僕、あれ持ってます、魔法使いの弟子の時の、ミッキーの帽子。あれだったらかぶってもいい。」 「よし決まり。俺はミニーで和樹がミッキー、明生くんは魔法使いの弟子ね。俺と和樹のは現地調達で……。」 「ちょ、ちょっと待てって。話を進めるな。」先生が慌てて止めに入ってきた。僕はもう、笑いが止まらない。 「なんだ、やっぱり和樹もミニーのほうが良くなったか? だったら俺ら2人がミニーで、明生くんを取り合う感じで……。」 「どうしておまえはミニー確定なんだよ。いや、違った、問題点はそこじゃねえ。」 「ミニーの、花嫁のベールみたいなのがついてるやつ、見たことあるなぁ。あれがいいな、俺。売ってるかな。」涼矢さんはスマホを操作しはじめた。「ベールつき」が売られているのかを本格的にネットで調べているようだ。……もう、ダメ、お店なのに、大笑いしちゃった。 「明生、笑ってないで止めてよ、この人。」先生が本当に困った顔をしているのが余計おかしくて、また笑っちゃう。 「現地で売ってるかはわかんないけど、通販で最短で2日でお届けってのがあった。28日なら間に合うな。明生くん、28日はどう? 夏休みの宿題は終わってる?」あくまでもマイペースを崩さない涼矢さん。 「だ、だいひょうぶです。」笑いながら答えたから、変な風になっちゃった。 「俺の都合を先に聞けよ!」 「おまえは俺に合わせろよ。わざわざ東京来てやってんだから。」 「俺じゃなくてウォルト目当てなんだろ。」 「何すねてんの。そんなのウソに決まってるだろ。もちろん和樹に会うために来たんだよ、ダーリン。」 「あー、またノロケてる!!」と僕。「だから2人で行けばって言ってんのに!」 「明生くんがいないと俺はミニーの格好ができないから困る。」と涼矢さんが言った。 「……僕がいなくたって、したけりゃすればいいじゃないですか。」と僕は言った。 「俺ら2人だけでミッキーとミニーの格好で歩いてたら、さすがにちょっと周りが引くだろ? 明生くんがいてくれたら、シャレに見えるだろ?」 「なあ、涼矢。俺にはさっきから、おまえがミニーのコスプレがしたいとしか聞こえないんだけれど。」 「コスプレしたいとは言ってない。ベールつきのミニーのカチューシャがつけたいだけだ。」 「なんで? そんな趣味あった?」 「ないよ。けど、与えられた環境を可能な限り満喫したい。夢の国に行くなら、夢の国でしかできないことをした方がいいだろ? でも、おまえや俺がフルにコスプレしたら、ひとさまの夢を壊しかねないだろ?」 「その妥協点がミニーのカチューシャ?」 「そ。」  先生はため息をついた。「わかった。こうしよう。エミリも誘う。そしてエミリにミニーをやってもらう。明生はなんだっけ、ナントカの弟子で、俺とおまえはミッキーだ。これが俺が耐えられる妥協点。」 「エミリを巻き込んだら悪いだろ。」 「俺、今、連絡して、聞くだけ聞いてみるから。それでダメならあきらめろ。」 エミリって誰だろう?と思っていたら、先生が教えてくれた。「エミリってのは、高校の時の友達。女の子。今立川に住んでるんだ。」そう言いながら、スマホに何やら打ち込む。すぐに反応はあったようで、しばらく操作が続いていた。そして、「エミリ、28日オッケーだってよ?」と言った。

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