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第38話 ヴェール(3)
「あの、だったら僕は行かなくても……。」
「何言ってんの。来てよ。教え子も一緒って伝えたら、エミリも会いたいって言ってた。ただ、彼女めっちゃ体育会系で上下関係に厳しいから、明生、パシリにされるかもしんないけどな。」先生はそう言って笑ったけど、涼矢さんは黙っている。なんとなく機嫌が悪いようにも見える。さっきまでミニーがどうとか散々言ってたのに。あ、ミニーができないから機嫌悪いの?
「涼矢さん、そんなにミニーやりたかったんですか?」
「え?」涼矢さんは、意外なことを言われた、という感じで僕を見た。「あ、違う違う。3人で行くつもりだったから、心の準備が。」
「3人が4人になっただけで大袈裟だな。」と先生が言う。ちょっと意地悪な言い方だ。「それとも、エミリだから?」
「だから、巻き込むの悪いかなって思っただけ。エミリが良いって言ってるなら良いけどさ。」
その「エミリ」という人と、涼矢さんとの間には、何かがあったんだろうか。元カノとか? いや、でも確か涼矢さんはもともと恋愛対象は男の人だって言ってたし……。あ、先生の元カノ? いや、でも、そんなややこしい人をわざわざ誘わないよな。なんてことを考えている内に、ピンと来た。
「あ、そのエミリさんて、菜月の誕プレ選んでもらったっていう女友達ですか?」
「そうそう、よく覚えてんな。」先生が言う。てことは、つまり、涼矢さんが送り込んだ「スパイ」も、このエミリさんってことだ。
「僕、こういうことに関しては記憶力がすごいんです。」
「勉強に役立てろよ。……なんてな、明生は結構、がんばってたよな、夏期講習。テスト結果もすげえ上がってたし。」
「都倉先生のおかげですぅ。」冗談ぽく言ってはみたけど、本当のことだ。ある意味、先生のおかげ……。ところで結局、エミリさんとこの2人はどんなつながりがあるんだろう。単なるクラスメートって雰囲気じゃないよね。「その、エミリさんって、どういう知り合いなんですか? 高校の同級生なのはわかったけど。」
「部活が同じだった。水泳部の。」と涼矢さんが答えた。「結構良い成績出して、こっちの体育大に入った。立川って、ここからそんなに遠くないんだろ?」
「近いってほど近くもないけどな。電車で30分くらいか? そうそう、水泳部の時、涼矢が副部長やってて、エミリは女子部のほうの部長だったんだよ。」と、先生が補足をした。
「部長は先生?」
「いや、別の人。俺、人望ないからさ。」
「そ、遅刻多いし、練習サボるし、な。」
「バラすなよ。威厳がなくなるだろ。」
「明生くん、都倉先生に威厳なんてあったの?」
「うーん?」僕は首をかしげた。
「ひどいな。」先生は苦笑した。「でもま、涼矢は確かに真面目だったし、俺よりかはみんなから信頼されてたよな。」
「俺は今も真面目だよ。」
「ミニーコスプレやりたい奴のどこが真面目だよ。」
「コスプレじゃない。カチューシャ。」
「そういうのは女の子がやるから可愛いの。あ、エミリ、ミニーやるのはいいけど、そういう耳とかカチューシャは持ってないって。」
「既にポチったから大丈夫。2日以内におまえ宛に届く。」
「マジで買ったのかよ。つか、俺が買ったように誤解されるじゃないか。」
「誰に誤解されるんだよ。」
「宅配便の人。品名にミニーのカチューシャって書いてあったらどうするんだよ。」
「アダルトグッズじゃあるまいし、バレたって別にいいだろ。」
「涼、コドモの前でそういうこと言うなよ。」あ、はっきりコドモって言われた。僕は確かにコドモだけど、そこまでチビッコ扱いしなくてもいいじゃんね。
そしたら、涼矢さんが「明生はそこまでガキじゃねえだろ。」と言った。なんで僕の言いたいこと、わかっちゃうんだろう。その上、「おまえのそういう気の使い方、逆に明生に対して失礼だよ。」とまでバシッと言ってくれた。そうそう、そうなんだよ、先生!! と、僕は声を大にして言いたい。……というか、涼矢さん、僕のこと、呼び捨てにしたよね、今。なんだろ、なんか嬉しいな。
「俺は生徒を健全な環境で育ててやりたいの。」
「おまえに健全さなんて誰も求めてないよ。」
僕はウンウンとうなずいた。
「明生は俺の味方じゃないのかよぉ。」先生が睨んできた。でも、すぐいつものにこにこ顔に戻り「ま、でも、それもそうだな。」と言った。「俺に威厳なんかねえし、明生はそこまでガキじゃないよな。」
「そうですよ。先生は僕をコドモ扱いしすぎなんです。」
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