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第41話 エミリの話(1)

 夏休みのことだから、中はもちろんものすごく混雑していたけれど、時々、2人ずつに別れたりしながら結構うまく回った。僕と先生、涼矢さんとエミリさんという風に組んだ時に、ふと涼矢さんたちを見たら、ミッキーの耳をつけた涼矢さんと、ミニーのベールをつけたエミリさんは、とてもお似合いのカップルに見えた。 「みんなは、あの2人がカップルだって思いますよね。」と僕は言った。言ってから、それを先生に言うのは悪かったな、と思ったけれど、先生はそれほど気にしていない様子で、そうだな、とだけ言った。  その後で、今度は僕とエミリさんが組んだ。アリスのティーカップだ。先生たちは、こういうの、酔っちゃうから苦手なんだって。カップに乗って、僕はエミリさんに「彼氏さんは、ヤキモチ焼かないの? 僕はともかく、男友達とディズニーなんて。」と聞いた。エミリさんとはもうタメ口だ。だって、タメ口で話さないと「ババア扱いされてるみたいで嫌だ!」と怒られる。 「うん、和樹たちの事情は話してあるしね。」 「さっき涼矢さんと並んでた時、普通はこっちがカップルだよなーって思って、変な感じがした。」 「だよね。」そう言ってエミリさんは笑った。そうかと思うと、カップをえらい勢いでグルグル回した。 「わっ、ちょっと、エミ、エミリさん、エミリッ!!」 「ははは。そうそう、呼び捨てでタメ口だからねっ!」  その後も、音楽が止まるまでフル回転だった。僕はふらふらになってカップを降りた。よろけそうになる僕の腕をエミリさん……エミリ、が掴んで支えてくれた。この時、ちょっとだけ胸が当たってたのは、内緒。 「明生、大丈夫?」 「うん、少し休めば、治ると思う。」 「ベンチ座ろうか。」僕たちはベンチに座った。「やり過ぎたね、ごめん。」 「う、腕の力、半端じゃない……よね……。」 「鍛えてますんで。」 「せっかくきれいなんだから、パワーは少し控えたほうがモテるよ、きっと。」 「なんだ、そのお世辞は。バカズキの教え?」 「バカズキ?」 「和樹のこと。あいつ馬鹿だから。今でこそ涼矢一筋だけど、基本、考えなしの女たらしなのよ。」 「そうかなあ……。先生は、完璧じゃないけど、良い先生だよ。尊敬できるところもたくさんあって、考えなしじゃないよ。女たらしでもないよ。勝手に女の人のほうが騒いでるだけ。」 「ふふ。」エミリは笑った。「似たようなこと、涼矢に言われたな。」 「え?」 「あたしねえ、涼矢が好きだったの。高校3年間、ずっと片想いしてた。」えっ? やっぱりなんか、そういう、元カノ的な…? でも、片想いか。エミリ、何を言うつもりなんだろう。「すごーく好きだったんだよ。でも言えなかった。言えないまま、卒業した。そしたら、卒業してすぐ、クラスの子たちと遊びに行くことになって。そこで、2人がつきあってるって知った。もう、ショックでショックで。だって、男だよ? 信じられなかったよ。しかも相手はアレでさ。あたしを振った涼矢より、和樹が憎たらしくて。なんで和樹なんだって、涼矢に詰め寄った。和樹なんか、馬鹿だしチャラいし、どこが良いんだって。」  エミリはそんな話を笑顔で爽やかに話す。僕は何も言えない。 「そしたら、和樹は馬鹿だけど、チャラくないよって、涼矢が言った。今の明生みたいにね。しかも涼矢は、和樹のその馬鹿なところが好きなんだってさ。確かにねえ、和樹は、馬鹿だから人によって態度を変えるようなずるさはなかった。男に対しても女に対しても、ちょっとクラスでいじめられちゃうようなタイプの子にも、誰にでも優しかったし、がんばってる人はライバルでも心から応援するような奴なのよ。あ、あの2人、部活ではずっとライバルだったの。だからみんな、2人はつきあうどころか、ちょっと距離を置いてる関係だと思ってた。でも、こうなってみたら、なんかすごくわかるんだ。ハマるべきところにハマった感じ?」 「……エミリは、自分を振った相手と、どうして友達になれたの?」

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