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第45話 はじまりの日(1)

「なんで涼矢が知ってるの。」 「さっき言ったけど、俺、修学旅行委員で、みんながちゃんと規則通りにホテルに戻ったかどうかを確認をする係だった。班は全員一緒に行動するのがルールだっただろ? ほとんどはきちんとルール守ってたんだけどね、中には事前に提出したメンバーと違う人と行動する人がいてですね。」涼矢さんは横目で先生を見る。「奏多たちの班は規定の時間内に戻ってきたけど、誰かさんだけいなかった。現地で和樹だけ班から離脱したんだってね? 帰りは待ち合わせて一緒に戻るはずだったのに、約束の時間に来なくて、しばらく待ってたけど間に合わなくなりそうだから仕方なく置いてきたって奏多が言ってたよ。で、規定の時間を過ぎて、先生が待ち構えているところに、盛り上がって時間を忘れていた馬鹿なカップルが何組か駆け込んできた。そのうちの1組に、和樹とヤマギシさんがいたね?」 「ホテルの廊下に正座させられたなあ。」 「遠い目してんじゃねえよ。」 「ヤマギシさん? あの、超真面目で大人しい…こう言っちゃなんだけど、すごく地味だった子よね? つきあってたっけ?」 「つきあってないよ。その日一日だけ。だって前日の夜、俺らの部屋来て、一緒にまわってくださいって必死な顔して言うんだもん。ああいう子がそんな勇気出して来たらさぁ、応えてあげなきゃって気になるもんで。」  涼矢さんはため息をつく。「八方美人すぎんだろ。」 「何年前の話を気にしてんの。」 「気にしてないけど。」 「その割に事細かに覚えてるじゃないかよ。俺でさえ言われるまで忘れてたっつの。」 「涼矢って、もうその頃には和樹のことが好きだったわけ?」 「何だよ、急に。」涼矢さんはエミリのこんな質問に、少し照れくさそうだ。でも、僕もそのへんの事情には興味はある。 「好きな人のことだったら、事細かに覚えてても当たり前だなあと思うから。あたしだって、涼矢に関することならどうでもいいこと気にしてたし、つまんないこともいちいち覚えてたもんよ。あ、今はもうぜーんぶ忘れたからね。」 「そうだよ。」涼矢さんはぶっきらぼうに言った。 「そうって?」 「エミリの言う通りってこと。」 「修学旅行の時には好きだったって話? じゃ、そもそもいつから好きだったの?」 「いいだろ、そんなの。」涼矢さんは目をそらして、落ち着かない様子だ。僕の前では結構普通にノロケるのに、エミリの前では恥ずかしいみたい。 「僕も知りたい。」と僕は言った。「なんだっけ、そういうの。つきあうきっかけ? みたいなこと。」 「なれそめ?」とエミリが言った。 「そうそう、なれそめ。2人のなれそめ、聞きたい。」 「俺、席、外そうかな。なんか食いもん買ってくる。」先生が腰を浮かせた。 「ちょ、ずるいぞ。」涼矢さんが先生の腕をつかんだ。 「涼矢さんが告白したんだよね?」と僕が言うと、涼矢さんが真っ赤になった。 「明生、余計なこと言うなよ。」涼矢さんが困った顔で僕を見た。怒りたいけど怒れない、そんな感じ。悪いとは思ったけど、僕は言ってやった。 「僕とエミリは、聞く権利があると思う。それぞれ、二人に振られたんだから。」 「そう言えばそうだわ。あたしたちには聞く権利がある。明生、良いこと言った。」  僕とエミリ対先生と涼矢さんという形で向き合う。先生は腰を浮かせたままだ。 「涼矢のいいように説明していいから。」先生はそう言って、するりと涼矢さんの手をかわして、どっかに行っちゃった。 「ちくしょ、逃げられた。」と涼矢さん。 「で?」とエミリが詰め寄った。「とりあえず、いつ恋に落ちたのか?から、聞かせてもらいましょうか。」エミリの言葉には迫力がある。この迫力で聞かれたら、僕だったらどんな秘密もバラしてしまいそう。 「入学……式。」涼矢さんも僕と同じみたいだった。

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