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第46話 はじまりの日(2)

「入学式? 会った初日?」 「うん。最初の席って名前順だから、隣で。」 「やだ、じゃあやっぱりあたし、最初から負けてたのね。3年間も片想いしてて、あたしのほうが絶対先に好きになってたのに!!って思ってたけど、さすがに入学式ってことはなかったわ。あたしがあんたを意識しはじめたのって、夏合宿のあたりからだもん。そっか、入学式に一目惚れか……。和樹のイケメンが諸悪の根源ね。」 「別に悪なわけでは……。」  エミリは涼矢さんの言葉を遮って、また話しだす。強引。「それで? 涼矢から告白したのね? それはいつ?」 「卒業式の、少し前。」 「はあ、本当にまるっと3年間。よくまあ隠しおおせたものね。全然わかんなかったわ。」 「それなりに、努力してましたよ。」 「隠す努力を?」 「だって、そりゃそうだろ? 普通とは違うんで。そうとバレても今まで通り友達、というわけにはいかないし。和樹だけじゃなくて、ほかの奴にしても、さ。実際はバレた後もみんなちゃんと接してくれてるけど、全員が全員快く受け入れてるんじゃないことぐらいわかってるし、今だって本当のことを言えない人もたくさんいるよ。」  普通とは違うんで、という涼矢さんの言葉。僕はもう2人が一緒にいることに慣れちゃって、忘れそうになるけど、普通とは、違うんだ。僕も今、学校の友達に好きな人のことは言えない。塾の、男の先生が好きだなんて。そっか。涼矢さんも、ずっとそうだったんだ。  僕がそう思っていたら、エミリも言った。「そっか……。大変だったね。あたしが言うのもなんだけどさ。あたしの片想いよりずっと重かったね。」 「そんなのは比べられないだろ。」涼矢さんは僕を見た。「明生が和樹のこと好きだっていうのも、中学生の恋愛感情なんて大したことないとは、俺は思ってない。」  涼矢さんは、今の僕ぐらいの時、すごく辛かったって言ってたな。僕にはそういう思いをさせたくないって。そのおかげで、僕は今、男の先生のことが好きでも、そんなに辛くはない。ていうか、結構楽しんでる。友達には言えないことではあるけど、こうして理解してくれる人がいるから。僕の「好き」という気持ちを、分かってくれる人がいるから。 「そうだね、必死さという真剣さというか……そういうのはこどもだって同じよね。こどものほうがむしろ余計な計算しないで、純粋に好きになったりするかも。」 「え、俺のことは、余計な計算込みだったの?」涼矢さんは笑った。 「友達に自慢できる彼氏がいいなぁぐらいのことは考えるじゃない? あと、キスが上手そう、とか?」 「うぇっ。」僕は思わず妙ちきりんな声が出てしまった。だってこんな、サバサバしたエミリがそういうことを言い出すとは思ってなくて。 「それは……ガッカリさせて悪かったね。」  なんだって? 僕は更にびっくりして涼矢さんの顔を見た。 「あはは、うそうそ。そんなことで好きになったりしないわよ。」とエミリが笑う。それからエミリはニヤニヤして僕を見た。「そ、あたしのファーストキスは彼に捧げたのよ。振られるのは仕方ないけど、キスぐらいしろって迫って、無理やり、ね?」最後の「ね?」は涼矢さんに向かって言っていた。 「無理やり迫られたとは思ってないけど……今思えば可愛らしかったね、エミリも。」 「何それ、今とは違って、って言いたいの? ひどいな!!」エミリは笑って涼矢さんの肩を叩いた。「あ、違うな。涼矢があたしのこと可愛いなんて言ったの、今が初めてだ。昔からあたしのことは、ほめるにしてもかっこいいとか尊敬するとかそんなことばっかりだったもんね。女扱いされてなかったんだよね。」 「女扱いはしてたよ、だから無理だったのであって。」 「あっ、そうか。女だから対象外だったんだもんね。って、あんたややこしいな!」  涼矢さんは苦笑いする。「ごめん。」 「あー、いや、それはあんたが悪いわけじゃないから、謝らないでよ。って、あの時も似たようなこと言ったね、あたし。」 「うん。……女の人ってすごいなあって思ったよ。こんなちっちゃくて、華奢で、なのにどうしてこんなに強いのかなって思った。」

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