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第47話 はじまりの日(3)
「あたし、ちっちゃくも華奢でもないじゃん。そりゃあんたたちみたいな180cmクラスから見たら身長は低いけど、女にしちゃ大きいでしょ。この発達した上半身と言い、逞しい腕と言い、女の子らしい服も全然似合わないし、友達からはメスゴリラって言われてるんだから。メスってついてるだけありがたいけど。」それはお友達が悪いと思うな。エミリはメスゴリラじゃない。顔はきれいだし、足だって細いし。ただ、確かに肩幅はよく見るとすごいし、背も僕より高い。165cmぐらいありそう。悲しいことに、僕はまだ150cm台なんだ。
「背が高いとか、筋肉質とか太ってるとかいうことじゃなくて……女の子って、やっぱり全然違うよ。和樹はあの頃、『女の子はちっちゃくて柔らかいから大事にしなくちゃいけない』って言ってたんだけど、こういうことかと思った。力を入れたら壊れちゃいそうだと思った。エミリも。」
「へえ。あたしなんて、壊しても壊れそうにないって言われるけどね。にしても、和樹ったらそんなこと言ってたの。さすがスケコマシね。」
「まあ、つまり俺は女の子じゃないから、大事にしなくても良いと言う話につながるんだけど。」
「でも、大事にされてますよね。」と僕は思わず言う。
「うん。」とエミリも同意してくれた。「元カノより全然大事にしてると思う。」涼矢さんは何とも言えない、恥ずかしそうな顔をして、肯定も否定もしなかった。
「とにかく、女の子はちっちゃくて柔らかいから大事にしなくちゃいけないんだってさ、明生。」
「僕よりでっかい女子、たくさんいるけど。」
「だからね、実際のサイズの問題じゃないの。エミリも、お母さんも、和樹にチョコくれた女の子でも、女性には優しくしろってこと。都倉先生の教えだから。」
「うーん。絶対僕よりみんな強いけど。でも、分かった。」
「ねえ、それで?」エミリが涼矢さんに、ズイ、と近寄った。
「それでって?」
「話が終わったと思わないでよ。まだ聞いてないんだから、告白の話とか。」
「しただろ。」
「なんて言ったの? いつ、どこで、どうやって?」
「なんでそんなこと。」
「聞く権利。」
「普通に、好きですって言ったって。」と僕はバラす。
「明生! ああもう、言わなきゃよかった。」
「好きですって言ったの? 涼矢が? どこで?」
「……俺の部屋。」
「部屋! いきなり部屋に連れ込んで!」
「連れ込むって言うな! ふ、普通に遊びに来ただけで。」
「和樹は普通に遊びに行ったつもりかもしれないけど、あんたは違ったわけでしょ? 最初から告るつもりで呼んだんでしょ?」
「ちょっとは思ってたけど、ギリギリまで迷ってたよ、さすがに。」
「でも、言っちゃったんだ。」
「言っちゃったんだね。」
「和樹の反応は?」
「大変びっくりして、非常に困ってらっしゃいました。」
「そりゃそうだろうね。」
「なので、変なこと言って悪かったと謝って、帰らせようとしたんですが。」
「したんですが。」
「なんかいろいろ言いだして。」
「何を言うわけ、その状況で。」
「もう会うことないから、忘れてくれって言ったのに、それは嫌だと。これからも普通の友達でいようとか、言うんですよ、あの人は。」
「あらまあ、そんなこと言われても、無理よねぇ。振られた相手と友達なんて。あ、あたしか。」
「でも、ちょっと違うだろ。エミリの場合と。それで普通の友達ってのは、やっぱ俺は無理で。それは無理なことです、卒業したらもうお会いしません、さようならお元気で、と終わらせようとしたんですが。」
「したんですが。」
「どうしてだか、そのあと、何日かしたら急にデートしようと言われて。」
「つきあうことにしたって?」
「いや、そうじゃなくて。このままバイバイというのはお互いすっきりしないから、最後にデートのひとつもしようなんてことを。後から聞いたら、彼のお兄さんの入れ知恵だったみたいなんだけど。デートして、気持ちに区切りをつけたらいいんじゃないという。」
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