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第48話 はじまりの日(4)

「なるほどね。あたしのキスとおんなじね。」 「それで、デートしました。」 「うん。しました。でも、そこで区切らなかったってことよね?」 「そうですね。なんか……つきあおうみたいなことを言いだして。」 「和樹が?」 「そう。」 「何それ。あんたデートで何やったの。」 「別に、何も。映画観て、メシ食って、ああ、あとプラネタリウムに行ったんだったかな。それだけ。」 「なんという王道のデートコース。」 「和樹さんのことですから、それはもう手慣れてまして。俺はついてっただけで。」 「あ、そうね。それで、どの段階でつきあおうって?」 「プラネタリウム見た後、まだ時間があったから、うちに寄ることになって。……で、えーと……そこで言われた。」 「ちょっと待って。今の()は何?」 「間?」 「うちに寄る、と、そこで言われた、の(あいだ)の、()よ。」 「別に、他意はない。」 「他意はないと言う奴に限って、必ず他意はあるんだから。ほら、言いなさい。」  涼矢さんはチラリと僕を見た。なんだ、救いを求めているのか? 僕に頼られても……って違うな。そうじゃない。僕に聞かせたくない話、みたいだ。 「だから、そこでつきあおうって言われて、じゃよろしくお願いしますって言って、そうなりました。以上。」 「そんな簡単だったわけないでしょっ。あたしはもっとそこの、グチャグチャッとしたところを知りたいのよ。」 「昼ドラじゃないんだから。何を期待してんの。」 その時。 「場所あけて。」頭の上から声が響いた。「1人で運ぶの、超大変だった。」先生は、トレイにフライドポテトとかチキンとかピザとか、あとドリンク類を乗せて持ってきていた。みんなでスペースを作って、それを置いた。 「1人で逃げたんだから仕方ない。」と涼矢さんが言った。 「へへ。」と先生は笑った。 「でも、残念ながら、話は佳境のところでまだ終わってないの。和樹に聞こうかな。」 「なんだよ、何も言わねえぞ。」 「ねえ、告ったのは涼矢でも、つきあおうって言ったのは和樹なんでしょ? なんで気が変わったの? 一度は断ったんでしょ?」 「言わない言わない。」先生はピザをもぐもぐしながら言った。 「言いなさい。」 「どこまで話したの?」と先生は涼矢さんに小声で聞いた。 「デートした日につきあおうと言われたってとこまで。」涼矢さんもコソコソと言っているけど、丸聞こえだ。 「それで卒業式でようやくOKが出て。」と先生が言った。 「あ、そこ違う。つきあおうって言われて即OKしたみたいに涼矢は言ってた。」エミリがつっこむ。 「えー、そんな簡単じゃなかったよ。保留にされたんだよ。こいつから告ってきたくせに、頭冷やせなんて言われてさ。何日かお預けくらって、やっと卒業式の日にいいよって。」 「そんな言い方してねえだろ。」 「してたよ。」 「だって、本気だと思わないだろ。ノリだけで言ってるとしか思えなかった。」 「どういうノリだと、涼矢とつきあおうって気になるのよ。だって、和樹はそれまで、全然そういう目で見てなかったんでしょ?」 「ああ。」 「部活内でも、ライバルで、特別に仲が良かったとも思えないし。」 「そう。」 「女が好きだったわけでしょ?」 「ご存知の通り。」 「それがなんで告られて、1回デートしただけでそうも変わるのかって。その秘訣が知りたいんだってば、あたしの今後のためにも。」 「秘訣も何も……。」先生は涼矢さんをチラッと見て、咳払いみたいなものをひとつした。「なんか……楽しかったんだよ、やたらと。デートが。」 「友達と遊ぶのとは違ったの?」 「うーん。エミリが今言ったみたいに、俺らライバルで、仲悪くはなかったけど、すごく仲良しでもなかった。何人かで遊ぶことはあっても、2人だけで遊んだこともなかった。2人だけで会うのって、そのデートが初めてだった。で、こいつすげえ無愛想だったじゃない? 高校の時。でも、デートの時は、結構よく笑うし、しゃべるし、あとすげえ食うし。あれ、こんな奴だったっけ?って思って。そしたら、なんか、もっと違う顔が見たくなったっつうか。じゃ、つきあってみたらいいじゃないかと。」すげえ食う、と言われた涼矢さんは、いつの間にかチキンを骨だけにしていた。

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