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第50話 はじまりの日(6)
僕たちはその後、その話の続きをすることはなく、パレードを楽しんだ。それが終わると、パレードを見る前と同じように、アトラクションを楽しんだり、ポップコーンを食べ歩きしたりして過ごした。と言っても、一番長く時間を費やしたのは、行列に並ぶことだったんだけれど、それだって楽しかった。並んでいる間は、エミリに普段やってるすごいトレーニングメニューを聞いたり、先生に大学のサークル活動の話を聞いたり、涼矢さんに僕にもできそうな料理の作り方を教えてもらったりした。涼矢さんて、料理がすっごく上手なんだって。それを自慢する時の先生は、ちょっと可愛いと思った。
夕方になると、先生が「明生は7時までに帰らなくちゃいけないんだろ?」と言った。
「先生と一緒なんだから平気だよ。」今回は、お母さんからは、何時までに帰れとは指定されてない。
「一応、確認してよ。ちゃんとしておかないと、この次またってなっても、連れていってやれないぞ。」
「分かった。」僕はスマホでお母さんに聞いてみた。そしたら、やっぱり7時前後には戻ってこい、そうしないと夕飯も先生たちと一緒に食べることになって、迷惑だから、だって。そうなると6時にはここを出なくちゃならない。それはいくらなんでも早すぎると思うんだけどな。周りの友達だって、ディズニーに来たら閉園までいるって奴ばかりなのに。
僕はなんとかお母さんを説得してみようと考えるんだけど、名案は浮かばない。パスポートはお母さんにお金をもらって買ったし、お小遣いや例の誕プレのお金もほとんど残ってる。迷惑というのがお金のことだったら、問題ないはず。あ、でも、さっきのコーラやポテトは何も言われてなくて払ってないや。どうしたらいいのかな。
「どうだった?」と先生が聞いてきた。
説明が面倒で、僕はお母さんからのメッセージ画面を見せた。
「うーん、そうか。別に迷惑じゃないけど、どうしようか。親にだめだと言われてるのに、連れまわすわけには行かないからなあ。」先生は考え込む。
エミリも画面を覗き込んで「でも、せっかくだし、ごはんぐらいみんなで食べたいよね。」と言う。そんな風に思ってもらえてるなら、嬉しいな。「明生は、ディズニーランドに遅くまでいたい? それとも、ディズニーじゃなくても、どっかでご飯食べに行くとかでも良い?」
「みんなと一緒にいられればどこでもいい。」
「それだったら、とりあえず6時にここ出て、地元に着いてからもう一度連絡してみたら? きちんと6時に出たよーってことで、お母さんの印象が上がったところで、先生からのひと押しがあれば、ごはんぐらいいいですよってなるんじゃない? 遅くなるようなら、おうちまで送ってあげたらいいじゃない。」
「なるほど、エミリさん、頼りになる。明生、ここはエミリの言う通りにして、はい、わかりましたーって素直な返事しとけ。」
「はい、わかりましたー。」
「俺にじゃねえよ。」
「わかってるよ。」いつの間にか僕、先生にもタメ口だ。エミリと話してたらこうなっちゃった。塾にいる時は気をつけないと。先生が教室長に怒られちゃう。
でもな。
「ねえ、ディズニーのために東京まで来たんでしょ。もっとゆっくりしたいよね?」僕は涼矢さんに言った。「僕は1人でも帰れるし、なんだったらエミリと先に帰るよ。」
涼矢さんは一瞬呆気にとられたような顔をしてから、優しく笑った。「大丈夫だよ。ほら、俺、お金持ちだしさ、ディズニーなんて来ようと思えばすぐ来られるよ。ありがとな。」そして、僕の髪をくしゃっとしながら頭を撫でた。「俺も、みんなといるほうがいいよ。」
「本当に?」
「ああ。」
「じゃあ、あと1時間ぐらいしかないから、急いでなんか乗ろう。あと、お土産も!」
僕たちが最後に乗ったのは、イッツアスモールワールドだった。僕たちの小さな世界。男の子も女の子も、肌の色や目の色も違う子も、みんなが笑ってる世界。
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