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第51話 夢の思い出(1)

 そして駆け足でお土産を買いに行った。僕はお母さんにクッキーを買った。それから、みんなで来たことの記念の何かが欲しいなと思ったんだけど、僕はどうもそういう物を思いつかなくてウロウロしているばかりだった。だいたい僕って、5月の自分の誕プレですら8月の今になっても決められないんだもんな、情けないよ、まったく。優柔不断、ってやつだね。  そしたら、エミリが何かを熱心に見ているのに気が付いた。僕も同じ方向を見てみたら、キャラクターのキーホルダーがあった。ミッキーやミニーやプーさんのシルエットがさりげなく入っているシンプルなデザインで、男でも女でも抵抗なく使えそうな感じ。いいなあ、これ。僕もそれを手に取ってじっと見た。「明生、こういうの使う? だったらあたし、これ買ってあげるよ、今日の記念に。」  うん、欲しいんだけど、僕が使いたいと言うより、みんなで同じの、持ちたいんだ。……とは、恥ずかしくて、言い出せなかった。 「何見てんの。」急に声がしたからびっくりして振り向いたら、先生だった。更にその後ろには涼矢さん。「あ、それいいな。俺、ちょうどキーホルダー欲しかったんだ。お金持ちの涼矢くん、これ買ってよ。」  涼矢さんは「それぐらい自分で買え。」と言いながらも、値札をチェックしてる。 「あら、あたしは明生に買ってあげるつもりよ。」 「だめだよ、明生に買ってやるのは俺の役目なんだから。明生はどれがいいの?」と先生。 「自分のは俺に買わせて、明生のは買ってやるのかよ。」と涼矢さん。 「じゃ、じゃあさ。」僕は勇気を出してみた。「みんなでこのキーホルダー、誰かの分を買おうよ。ええと、先生が僕の買って、僕は涼矢さんの買って、涼矢さんはエミリの買って、エミリは先生の買う。どう?」 「ああ、そういうのだったら、いいんじゃない?」と涼矢さん。 「でも自分で自分の買うのと同じよね? どのキャラでも値段一緒だし。」とエミリ。 「気分が違うよ、誰かのために買うってところがいいんだよ、な?」と先生。僕はうなずく。 「あ、なるほど、そういうことか。みんなあたしよりロマンチストね。」 「エミリと比べればね。」と先生が言ったら、エミリは怒って「あんたなんか仲間に入れてあげない。3人でお揃いにしてやるから。」と言った。でも、もちろんみんなでお互いに買って、選んだキャラクターは少しずつ違ったけど、ちゃんと4人でお揃いになった。やったね。  帰りの電車の中で、先生が「明生、お土産買ったりしたけど、お小遣い的に大丈夫?」なんて気にしてくれた。 「大丈夫。あ、そうだ、ランチ代とかポップコーン代、払ってない。いくら払えばいいですか?」と聞き返したら、先生は要らない要らないと手をぶんぶん振った。 「ホントは、明生の分のパスポート代だって、おごってやるつもりだったんだから。」と先生が言うと、 「俺が、な?」と涼矢さんが言った。「俺につきあってもらっちゃったんだからな。」 「いいんです、パスポート代はお母さんがくれたから。今年は家族旅行とかも連れてってないし、いいよって。お母さんがそんな風に言うの珍しいんだよ。先生、よっぽど気に入られてるね。」 「ついに教え子の母親まで。」とエミリが呟いた。 「人聞きの悪いこと言わないの。」と先生が笑った。 「ねえ、涼矢、つきあわせたって言うなら、あたしもでしょ。あたしの分出してよ。」 「いやだね。誘ったのは和樹だし、俺の味方してくれなかったし。」涼矢さんが珍しくすねてる。 「えー、涼矢ってそんな人だったっけ? もっとカッコいい奴だと思ってたのになあ。」 「カッコ悪くてすみませんね。」 「エミリの分は、俺と涼矢で出すよ。」と先生が言った。 「いや、そこは『俺が出すよ』じゃないの? なんで俺を混ぜる?」 「俺は貧乏なんだよ、おまえと違って。半分ぐらい出せよ。」 「2人してガタガタみっともないわね、奢るんならもっとスマートにしなくちゃ。だいたいね、自分の分は自分で出しますよ、あんたたちに奢ってもらうほど落ちぶれてないの。あ、ピザとポップコーンはゴチになっておくけど。」 「じゃあその代わり、夕飯、食わせてやるよ。和樹ん家で。」と涼矢さんが言いだした。「明生も来られると良いな?」 「涼矢さんが作ってくれるってこと?」 「うん。」 「行きたい、行きたい!!」

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