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第52話 夢の思い出(2)
先生の家に行けて、そこで涼矢さんの料理が食べられて、しかもエミリも一緒なんて、絶対、すごく楽しい。お母さん、OKしてくれるといいなあ。
「おい、勝手に招待すんなよ、俺ん家なんだから。」
「いいだろ?」
「いいけど。」先生は何か言いたげだったけど、結局その先は何も言わなかった。
予定通り、僕の地元の駅には7時近くに着いた。僕たちは電車をいったん降りて、僕はホームからお母さんに電話した。途中で先生に替わって、先生が夕食に誘っても良いかという話をしてくれて、無事にOKがもらえた。やったぁ。
先生の家は、2駅先。僕たちはそのまま次の電車でそこに向かった。駅に着いて、改札を出ると、先生は「みんなと材料、買ってこいよ。俺、先に帰って片付けるから。」と涼矢さんに耳打ちしていた。
「片付いてるだろ? 俺があんだけ掃除してやったんだから。」
「片付いてねえもんがあるだろ。」
「あ。」
変にコソコソ話すので、逆に気になってしまう。その時、エミリが2人の間に割って入ってきた。「ふーん。やらしい話?」
「バッ……。」先生はいきなり入ってきたエミリにひどく驚いていた。
「やらしい話?」と僕が言った。「掃除の話だよね?」
「そ、そうそう、掃除の話。」先生の笑顔は引きつりまくっている。
「ふーん。」とエミリはもう一度言った。「わかった。じゃ、買い物につきあいましょ。涼矢、何作ってくれるの?」そう言いながら涼矢さんと歩き出したエミリ。僕もその後をついていく。
先生は逃げるようにその場から消えた。
スーパーマーケットに寄って、ショッピングカートを押す涼矢さんと前後して歩きながら「先生ん家って、ここから近いの?」と聞いた。
「歩いて、7、8分かな。」涼矢さんは時折ポイポイと野菜や肉をカゴに入れている。
「何回ぐらい来たことある?」
「えーと。」涼矢さんは少し上を向いて、思い出す素振りをした。「1年目は夏休みと、秋にちょこっと、今年は例のゴールデンウィークと今回、だから4回か。」
「今回はいつ帰っちゃうの。」
「うーん。9月に入ったらすぐ、かな。」
「9月? 夏休み終わっちゃってない?」
「大学は夏休み長いんだよ。9月の半ばまで休み。」
「だったら、それまでいればいいのに。」
「そうしたいけど、勉強会とかもあって。」
「そっか、大変だね。」
「まあ、仕方ないよね。自分が選んだことだから。」
そんなことを話していたら、エミリが「2人の会話、おもしろいね。」と言った。
「え、どこが?」と僕。
「対等……ではないけど、年の近い兄弟みたいな? 同じ匂いがする。」
「なんたって、同じ馬鹿にひっかかる同類だからね。」と涼矢さんが言った。そう言えばエミリ、そんな失礼なこと言ってたんだった。確かにその通りだけど、それをねちこく覚えてて、こんな時に蒸し返す涼矢さんも涼矢さんという気がする。僕はそこまでねちこくはないつもりだ。そう考えると、僕と涼矢さんが同類の匂いがすると言われて、喜ぶべきか、悲しむべきか。……いや、やっぱり喜んじゃうな。
「明生は、和樹のどこがいいの?」とエミリが聞いてきた。なんと、ついに僕までターゲット?
「優しいし。面白いし。カッコいいし。あと、勉強教えるのもうまいよ。先生のおかげで、国語の成績、すごく上がった。」
「へえ、最後の理由は意外。涼矢は? あんたは今でも、あの顔が好きなわけ?」
「それだけじゃないけど、顔は好きだよ、今でも。」
「あらあら、堂々とノロケちゃって。でもまあ、和樹、前より良い顔になったね。精悍になったと言うか。明生みたいな子に先生なんて呼ばれてると、中身もそれなりに成長するのかね。」
「俺のおかげとは思わないの?」
「あんたの前じゃ、デレデレしっぱなしのしまりのない顔しかしないじゃん、あいつ。」
「そうかな?」
「そうよ。」
「言っておくよ。」
「なんて?」
「デレるのは俺と2人きりの時だけにしろって。」
「まーたそういうこと言ってると、和樹に怒られるよ、明生の前なのに!って。」
「僕は気にしないよ。」
「そう? でも和樹には内緒にしとこうね。うるさいから。」とエミリ。
「うん。でもさ、僕もそう思ってた。先生、涼矢さんの前だと、すっごい優しい顔する。」
「そうかなあ。」と涼矢さんは首をかしげる。
「だって、涼矢さんは、涼矢さんの前にいる先生しか見てないから、わかんないんだよ。」
「あ、そっか。じゃあ俺はしまりのない顔しか見てないのか。」
「さあね、あたしには知りようのない別の表情もご存じなのかもしれないけど?」
「ふふん。」
なんかアダルトな会話。僕には分かんないだろうと思って油断してるんだろうけど、なんとなくは、分かっちゃってるからね。
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