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第56話 夢の思い出(6)

「おい、待て。あ、明生、いるし、見てるしっ!」先生は焦って涼矢さんの肩を押しやった。エミリが寝てる手前、必死だけど大声は出せない。 「明生? ああ、うん、わかってるよ。」涼矢さんは僕を見た……けど、よく見ると、目がとろんとしてて、こっちを見てはいてもちゃんと目が合わない。 「だ、大丈夫ですか。」僕は思わず涼矢さんに声をかけた。 「なんだよ、明生まで。大丈夫に決まってるだろ。」そう言って、ふらぁっと揺れたかと思うと、先生の肩にしなだれかかった。 「涼矢、おい!! 寝るなよ。」 「寝てないよ。」と言いながら、涼矢さんは先生の首に腕をまわして、抱きついた。ええっと、どうしよう。 「あのぅ……。」何を言ったらいいのか。 「すまん。非常にすまん。ほんっとうに申し訳ない。」先生は片手でなんとか涼矢さんをひきはがそうとしながら、もう片方の手で手刀を切るようにして僕に必死に謝っている。 「そっち見ないほうがいいですか。」 「あ、いや……うん。」 「……トイレ借ります。」 「えと、その、右の奥のドア。」涼矢さんをぶらさげたまま、先生が言う。  トイレに入る寸前、「和樹ぃ。」という声が聞こえた。今まで聞いたことのない、涼矢さんの甘えた声だった。  とりあえずトイレに避難したけど、別に用を足したいわけじゃないから、やることがない。僕は便座に座って、ぼんやりする。隅っこには、先生たちが言ってた、エミリのアレが置いてあった。フタを開けたら、虫のおもちゃが飛び出てくるんだっけ。ちょっと開けてみたいけど、やめとこう。それにしても、どのタイミングで出ればいいのかな。トイレの中では、声は聞こえないけど、何かしている物音は聞こえた。  2、3分経った頃、トイレのドアがノックされて、僕はトイレから出た。 「ごめん。」先生はこの短い時間に、すっかりゲッソリしてしまっている。「悪かったな。家まで送るよ。」  部屋に戻ると、涼矢さんはベッドに寝かされていた。さっきの物音は、たぶん涼矢さんをベッドまで移動した音だったんだろう。 「なんとか寝かせたよ。」と先生が言うと、 「寝てないってば。」と言って、涼矢さんが手を伸ばして、先生のシャツの裾をつかんだ。「起きる。」 「馬鹿、寝てろよ。」 「大丈夫だって。」その言葉通り、いつもの涼矢さんと同じぐらい、シャンとしてる声に戻っていた。でも、体は思うように動かない感じで、今度は先生の手を掴むと、それを支えにして上半身を起こした。それから、足だけおろして、ベッドに腰掛ける格好になった。 「おまえ、さっき自分が何したか覚えてんの。」 「覚えてるよ。ごめん。」涼矢さんが言った。 「明生に謝れよ。」 「あ、いえ、そんなっ。僕は、全然、気にしてないから。」 「ごめん。」涼矢さんは僕にペコリと頭を下げた。「さっきのは、変な意味じゃなくて、ちょっと、ふらついちゃっただけだから。……なんて、言い訳にもならないな。」涼矢さんは髪をかきあげた。それがすごく色っぽい……なんて、男の人に使う言葉じゃないのかな。でも、ドキドキしてしまった。 「俺、明生を家まで送ってくるけど、おまえ、大丈夫か? エミリもこれじゃこのまま泊めるしかねえよな。……ったく。」 「本当にすみません。ちゃんと留守番します。明生、ごめんね。この次はもうちょっとカッコよくするよ。」 「だ、大丈夫だから。涼矢さんの料理、全部すごく美味しかった。ごちそうさまでした。あと、ディズニーもすごく、すっごく、楽しかったし。エミリにも、起きたら、お礼言っといてください。」 「うん。こっちこそ、ありがとう。また懲りずに遊んでね。」 「はいっ。」  それから、先生と2人で夜道を歩いた。夜道と言っても、まだ9時前だったし、熱帯夜で、暑いぐらいだったけど。

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