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第59話 初恋(2)
[茶々は元気?] 今日もまた、約1週間ぶりに涼矢さんからメッセージが届いた。それはうちの猫の話題から始まった。例の涼矢さん達の謝罪画像が送られてきた時、その返信で、茶々が先生にいきなり懐いていたことを伝えたら、涼矢さんにすごくウケた。それ以来、茶々のことが気になるらしい。
[元気だよ。エミリは元気?]
[うん。フォームが、ほんの少しだけど、乱れてたみたい。昔から見てるこっちのコーチにそう言われて、今、修正するようにがんばってるって。もう少ししたら東京に戻ると思う]
[よかった]
[和樹から、連絡あった? 来月の、学祭のこととか]
[ううん 先生とは 塾で勉強のことしか話してない]
[そうなの?]
[うん]
[どうして? もしかして俺に気を使っている?]
[ちがうよ]
[それならいいけど]
[本当にそう思う?]
[え どういう意味]
[わかんないならいいって][涼矢さんも先生も][前に僕に言ってた]
[どうしたの 何か 怒ってる?]
[怒ってない][でも安心して][僕それほど先生のこと好きじゃなくなった]
[和樹に怒ってるの?]
[違う違う 誰のことも怒ってないよ][言った通り][先生のことは好きだけど 前ほどじゃないってだけ]
既読はついたけど、返信が途絶えた。
数分して、電話がかかってきた。
「どうしたの。」と涼矢さんが改めて聞いてきた。
「どうもしてないよ。」
「何か、いつもの明生と違うよ? 和樹に何か言われた?」
「言われてないよ。さっきも言った通り、最近は全然、話してないんだ、勉強のこと以外は。でも別にギスギスしてるとかでもない。普通だよ。すごく普通。」
「和樹じゃないなら、俺? まだ怒ってる? ディズニーの日のこと。」
「怒ってないよ。まだって何? 最初から、全然怒ってないのに。」
「酔っ払って、変なとこ見られちゃったからさ。」
「……。」
「明生?」
これから僕が言うことは、もしかしたら、涼矢さんを傷つけるかもしれない。ということは、僕は先生と「先生と生徒」ですら、いられなくなるかもしれない。でも、やっぱり僕は知りたかった。「……見られちゃったんじゃなくて、見せたってことはない?」
「えっ?」
「気が付いてなかったの? 涼矢さん、あの時の。」
「何が? 何の話?」
「僕、ずっと考えてた。気のせいなのか、そうじゃないのか。そうじゃないなら、なんでそんなことするのか。」
あの日。ディズニーランドから戻ってきて、先生の部屋で、みんなでごはんを食べた。エミリが寝ちゃって、涼矢さんまで、酔っ払って少し変になって、僕はトイレに避難した。いつここから出ればいいんだろうと悩んだ僕は。
そっとドアを開けて、部屋の様子をうかがった。
先生は一生懸命、ぐにゃぐにゃの涼矢さんをベッドに移そうと、涼矢さんを抱きかかえて、ようやくベッドの上に座らせたところだった。僕からはそんな先生の後ろ姿が見えた。その先生の首には涼矢さんの腕が巻き付いていた。
『涼矢さん、大丈夫かな。』僕はまだのんきにそんなことを考えていた。
その時だ。先生の肩越しに、涼矢さんの顔が見えた。
そして、涼矢さんと僕は、目が合った。合ったように思えた。それから涼矢さんの手が先生の頭を包み込むように動いて、先生の顔を自分へと引き寄せるのが見えた。先生はそれを嫌がるそぶりも見せず、そのまま、2人は、キスをした。チュッと一瞬するだけのじゃない。もっと、おとなっぽい、キス。
僕は慌てて、でもそうっと、トイレのドアを閉めた。
『なんだ、今の。あれじゃまるで、僕にわざと、キスしてるのを見せつけてるみたい。』
『でも、涼矢さん、さっきも目がとろんとしてて、ちゃんと焦点合ってなかったし、今も、僕のこと、気付いてないのかも。うん、きっとそうだ。』
先生がドアをノックしたのは、それからしばらくしてからだった。
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