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第8話

「我が君がお待ちしております。雨宮家の茶室……令庵(れいあん)にて」  と、折笠に言われるがまま、梅木原は折笠の車に乗り込み、雨宮邸の茶室・令庵へ向かった。 「いよいよ、あの野郎と決着をつけるんですね」  等と息巻く香井を枝野と2人で倒れている実元達を介抱するのに、高校の方へ置いてきた。  その間にも折笠の運転する車は雨の降ってきた道を快適に走っている。 「日本でのライセンスはまだ持っていないと聞いたが?」  無言であるのもどうかと思い、梅木原が口を開く。答えが返ってこないかとも梅木原は思ったが、意外と折笠は短いながらも丁寧に返してきた。 「ええ、つい先日までは」 「先日?」 「筆記と実技の試験をパスいたしましたので、日本でのライセンスも取得できました。ああ、年齢の事でしたら、確かに、我が君とは学年が同じではありますが、年齢は2つ程重ねてございますので」  折笠の流れるような言葉はさらりさらりとしていたが、内容は結構なものを言っていると梅木原は思った。 「こちらが雨宮家の第2邸宅となります」  折笠の運転する車が雨宮の第2邸宅前で停まる。第1邸宅は欧州風の豪邸であるのに対し、第2邸宅は純和風の敷地には大きな庭もあり、茶室があるとの事だった。 「こちらの待合で少々、お待ちを」  比較的、新しくできたであろう令庵と名づけられた雨宮家の茶室には待合や中門もあり、その奥には蹲やにじり口が見える。 「聡明様、折笠でございます。梅木原様をお連れいたしました」 「ありがとう」  本来は蹲で手を洗う、畳を傷ませない為に靴下を履き替えるという事等が客人であったとしても、求められるのだろうが、雨宮は「そのままでどうぞ」と言う。  梅木原は折笠が「では」と一礼をして、目の前から消えると、恵まれた上背をにじり口で屈めて入る。すると、そこは広間ではなく小間となっていて、利休などが確立していった様式と同様、実にこじんまりとした空間が広がっていた。

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