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第9話

「梅木原さん!」  雨宮はもう肌寒いというよりは蒸し暑い時期という事もあり、風炉の傍にいた。また出会った時とは違い、スーツではなく着物を着ていたのだが、上等なものである事は勿論、落ち着いた墨色が雨宮の肌の白さとアッシュベージュの髪色を引き立てていた。 「よくおいでいただきました……というよりは折笠君に無理、連れてこられた、というのが正しいですよね」  申し訳ないと詫びる雨宮に、梅木原は「いや」とだけ呟く。確かに、梅木原にとっては雨宮の推察通りなのだが、梅木原としても雨宮に再会できるのは単純に嬉しかった。街中のカフェでは会えないかも知れないが、こうして、雨宮と会えた。  出会い方は何でも良かった。 「ただ、俺は茶の決まりなんか知らないし、味が分かるかは怪しいもんだけどな」  梅木原はたまたま正客の座る場所へ座ると、雨宮は笑った。 「それで良いのです」 「ん?」 「元々、作法というのはより茶道を楽しむ為のものではあるのですが、作法を守る事ばかり固執して、楽しむ事ができないというのもいけないと私は思います。それでは本末転倒ですし、茶室というのは武士が密談できる場としても用いていたとされています」  雨宮はふっと掛け軸のかかり、黒い板床の上に生けられている花を床の間の方に目を向ける。 「今日は軸には『明鏡止水』。明山先生の書を飾らせていただきました。そして、金糸梅を信楽の花入れ……花瓶の事ですね、花入れに生けてみました」  まるで、貴方のようですね、と笑う雨宮は美しかった。  美しくて、眩しくて、梅木原は「そうか」とだけ言う。

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