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第2話【死を告げる妖精】 (上)

 【デュラハン】とは、海外で伝わる妖精のことらしい。  首の無い男の姿で、特定の人物に死を予言する存在……ネットに書いてある伝承を、義人は頭の中で反芻する。  神や妖精なんて信じていなかった義人だが、信じるしかない。  あの日……自らをデュラハンと名乗った青年は義人の病室に音も無く、窓から侵入したのだ。  雨には一切濡れず、存在感も出さず、気付けば傍に居た……誰かからそんな話を聞いたとしたら絶対に信じないが、義人自身が体験したのだから、信じざるを得ない。  デュラハンと出会い……つまり、余命宣告を受けてから、気付けば二週間が経っていた。  義人はあの日と同じように、ベッドで上体だけを起こしたまま、目を閉じて座っている。  誰もいない病室で、雨音だけが響く中……小さく、呟いた。 「デュラさん」  呟くと同時に、義人の髪が揺れる。  閉じていた目を開き、義人は前を向いた。 「……デュラさんっ!」  義人以外誰もいなかった筈の病室に、漆黒の衣装で身を包んだ青年が立ち尽くしている。  義人は青年を見上げて、瞳を輝かせた。  対して、義人に見上げられた青年は不服そうな声を漏らす。 「その呼称は変わらないのか」  義人に死を告げた存在……デュラハンが、そこには居た。  フードを目深に被り、マフラーで顔を覆っているデュラハンの表情は読み取れないが、義人には声で分かる。  分かっていながら、義人は満面の笑みでデュラハンを見上げ続けた。 「『デュラハンには、個体一つ一つに名前を付ける風習が無い』って言ったのは、デュラさんでしょ?」  デュラハンの口調を真似て、義人は答える。  デュラハンはわざとらしく額……と、思われる場所に手をついて頭を振った。 「何故、そこまで我に懐くのか……」  デュラハンは、義人に死を宣告した相手だ。  義人は本来なら、恐れるか悲しむか……負の感情を向けるべきだろう。  しかし、義人はデュラハンの想像とは別の反応を示した。  お見舞いに来た人が座る為に用意してあるパイプ椅子を手で叩き、義人はデュラハンに座るよう指示する。 「好きだから」  義人は、デュラハンに好意的な反応を示したのだ。

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