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第2話 (中)

 義人には、友人と呼べる存在がいない。  そもそも子供の頃から入退院を繰り返していたのだから、できる筈もなかったのだ。  家族とも疎遠で、お見舞いに来てくれるような人すらいない義人にとって、デュラハンの存在は輝いて見えた。  パイプ椅子に座ったデュラハンの手を、義人はグローブ越しに握る。 「見ず知らずの俺に、わざわざ『死ぬよ』って教えに来てくれた……俺を気に掛けてくれたのなんて、デュラさんが初めてだったから」  義人は笑いながら「だから好き」と、付け足した。  デュラハンが死を宣告するのは、優しさでもなければ同情でもない……義人だって、そんなことくらい分かっている。  それでも、病院の関係者以外とまともに接触したことのない義人にとって、デュラハンの来訪は嬉しいものだったのだ。  手を握られたデュラハンは、俯きながら重い溜め息を吐く。そんな姿を見ても、義人は嬉しそうに笑っている。 「『奇人だな』と、言われたことはないか?」 「初めて言われた!」 「悪意を込めて言ったのだが……」  デュラハンの悪態にも、義人は笑顔のままだ。  デュラハンは顔を上げて、義人を見つめる。 「何度でも言うが、我は汝を助けるつもりはない。最期に汝の魂を刈り取るのは、我だ」 「うん、知ってる」  フードとマフラーの隙間から見える、金色の瞳を義人は見つめ返した。  冷酷な輝きを持った瞳にも、義人は臆さない。 「最期まで、一緒に居てくれるんだよね」  義人の体調は、二週間前に比べて悪化していた。  体を起こせても、歩き回ることは満足にできない。そのくらい、義人は衰弱している。  それでも義人は、現状を嘆いたりしなかった。  日に日に死へと近付く自分の体を憂いたりせず、義人は笑う。 「デュラさん……大好き」  デュラハンと出会ってから、義人は変わった。以前まではぎこちない笑みを浮かべていた義人だったが、よく笑うようになったのだ。  医師やナースは義人のことを『余命宣告を受けて気が狂ったのでは』と、陰で噂している。それ程までに、義人は変わった。  デュラハンに奇人だなんだと言われても、義人は不快に感じない。むしろ、そんな悪態すらも嬉しく感じるのだから、デュラハンが肩透かしを食らうのも当然だろう。

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