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第3話【願い】 (上)

 眠りについてもうなされ、食事も喉を通らない。上体を起こすのも苦痛で、横になって浅い呼吸を繰り返す……義人の体調は、激変していた。 (まだ、一ヶ月……経ってない、のに……っ)  目を閉じて、長く息を吐く。  医師には『持って一ヶ月』だと、言われていた。デュラハンには『一ヶ月後』と言われていたのを、思い出す。  どちらの言葉を信じるかと問われれば、義人の答えは後者の言葉だ。 「デュラさん……っ」  呟くと同時に、すぐ近くに誰かの気配を感じる。  義人は重たい瞼を必死に開け、気配を感じる方へ視線を向けた。 「今日も、来てくれた……えへへ……っ」  か細い声で、義人は笑う。  そんな義人を見下ろしながら、デュラハンは重々しく呟いた。 「度し難いな。汝は何故笑う」  デュラハンの声を聞いて、自分がもうじき死ぬのだと義人は痛感する。  それでも、一向に恐怖心のようなものは湧いてこなかった。 「デュラさんに会えて……嬉しい、からっ」  義人は、笑う。  余命宣告を受けたあの日に比べたら【死】を理解できている。  義人はそれでも、恐怖心や焦燥感のようなものは抱かない。  ――ただ一つ、気掛かりなことはあった。 (デュラさんと……離れたく、ない……)  デュラハンが病室を去る度に、義人は激しい虚無感に苛まれるようになったのだ。  デュラハンと過ごしたこの数日が、義人の人生で一番充実していた期間だった。  デュラハンがいて初めて、義人は【生】を強く感じる。逆を言えば、デュラハンがいないのなら義人は自身の人生に、何の価値も見出せない。  それ程までに、義人はデュラハンに傾倒していた。  そしてデュラハンも、そのことには気付いている。  初めの二週間程は、義人の言動を『理解に苦しむ』と言っていたデュラハンであったが、義人が衰弱していくと共に、義人の言動を甘受するようになった。  戯れのような行為に、情が湧いたんだろうと義人は考える。  或いは、死に逝く自分への手向けに似た行為なのか……何にせよ、義人にとっては相変わらず、デュラハンの真意は些事のままだ。 「デュラさん……キス、して……?」  ベッドの傍に立つデュラハンに、義人はゆっくりと手を伸ばす。

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