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【2】恋煩う……②

 午前の外来を終えた昼休み、惣太は同僚の医師である林田を外来棟の最上階にあるレストラン「はくよう」に呼び出した。お互いにうどんを啜りながら会話をする。今日の林田はカレーうどんで惣太はキツネうどんだ。 「一つ、聞きたいことがあるんだが」 「なんだよ」 「おまえは恋人のことをなんて呼んでる?」 「恋人? いねぇよ、そんなもん。……ったく、ちょいちょい、リア充の優越感を挟んでくんなよ、うぜぇな。ここは病院の中だってことを忘れんなよ」 「過去でもいいぞ」 「はあ? 全く、面倒だな。おまえのその、恋愛初心者特有の浮かれ具合、イラッとするわ」 「やっぱり、名前で呼ぶべきかな……」 「聞いてんのか、コラ」 「林田ならなんて呼ばれたい? おまえの名前は(まなぶ)か。まなぶくん? まなぶさん? まなちゃん? ガクくん?」 「うるせぇよ」 「やっぱり、誰にも呼ばれない名前で呼ばれたいか? まなまなとか」 「いい加減にしないと、キツネうどんのキツネ部分を根こそぎ奪うぞ」 「いいぞ、欲しいならやるよ、ほら」  惣太は箸で油揚げをぺろんとめくった。 「心の余裕を見せるなよ。ムカつくなあ」 「やっぱり、ストレートに名前を呼んであげるべきかなぁ、征一郎さんって」 「……おまえ、その顔……鏡で見て来い。瞳孔フルオープンでマジで怖いわ。目、キラッキラしてんぞ」 「征一郎さんかあ……」 「もうやめろ。名前的に男と付き合ってんのバレバレだぞ」 「はぁ……」 「その見た目でヤクザの若頭を抱いてるとはな。ああ、恐ろしい。世も末だ……」 「せいさん、とかだと……なんかヤクザ感が出すぎるよな。どうしたらいいんだろう」  胸がいっぱいでうどんが食べられない。以前なら、これにおにぎり二個とお稲荷さん三個は余裕でいけたが、今日はうどん半分でお腹がいっぱいになった。 「あー、悩みが多いなあ」 「もう病気だな……おまえ。脳内ホルモンジャンキーだぞ」 「なんかさ、胸がいっぱいでご飯も食べられないし、世界がキラキラして眩しいし、すぐに涙ぐんじゃうし、とにかく大変なんだ……」 「恐るべしフェニルエチルアミン。まあ安心しろ、恋愛ホルモンのせいで脳内がお花畑になってるだけだ。じきに治る」 「うーん」  結論は出ず、結局、残りのうどんは林田に食べてもらった。

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