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瞳にただ真実を隠して、

翌日弥彦は一人、東雲屋を訪れていた。 「よう、時雨~。景気はどーよ」 「お陰様で上々だぜ。京家には、感謝してもしきれねーよ」 「大袈裟だな。ここの菓子は美味いんだから、もっと自信持てって」  時雨に促される様に、店の奥の座敷に腰を下ろす。出されたお茶と茶請けをつまむ。 「雨月ー、オレちょっと裏行くから店番頼んでいいか?」  時雨が厨房で作業をしていた雨月にそう声をかけると、奥から出てきた雨月が弥彦に気付いたようで軽く頭を下げる。 「分かりました。……兄さん、朝からずっと働き詰めですよね。お客様も減りましたし、ついでに少し休んで来てはいかがです?」  何かを察したらしい雨月が、後は任せろと言う。お言葉に甘え、時雨は弥彦の待つ部屋に行くと、部屋に鍵を掛け弥彦に向き直る。 「……雨月に気使わせちゃって悪かったな。というか、アイツここで働いてて大丈夫なのか」 「子供育てるには金がいるからなぁ……。アイツ、自分で稼ぐって聞かねーんだ。そんな事より、弥彦さんオレに話あって来たんだろ?」 「……時雨、ルイスって外国人知ってるだろ?」  何か言葉を探すように、弥彦は一瞬視線を彷徨わせるが、回りくどい言い方は止めたのか単刀直入にそう聞く。 「ああ、知ってるけど……」 「そいつ、今はどこに?」 「さぁ……。ただ、ちょうど昨日ルイスから手紙が届いてさ、来週にはこっちに来るってよ。泊まる予定の宿屋の場所まで、ご丁寧に書いてあるぜ」 ◇◆◇ 「Oh……貴方は誰デス?」  とある宿屋の一室。世界を巡り、時雨という癒しを求めて、久しぶりに日本に戻って来てみれば、何故か知らない男。 「時雨じゃなくて悪かったな。俺は、京弥彦。時雨とは腐れ縁だよ」 「私はルイス=レイノルズと申しマス」 「時雨から聞いてる。日本語、随分と上手いんだな。……アンタに聞きたい事があって、時雨にここの場所を聞いたんだ」  京弥彦と名乗った男は、隠そうとはしているようだが、大分やつれて見えた。その姿が何だか哀れに思えて、無下に帰す事も躊躇われる。早く時雨に会いたいのに。日本語だって、時雨と対等に会話がしたくて必死で覚えたのだ。他の男と会話をするために覚えたわけじゃない、と心の中で毒づく。 「時雨と話をしたくて、必死に勉強しまシタから。それで、私に聞きたい事とは?」 「アンタの国で研究されている、男女以外の性別について」 「……バース性、ですカ」  なるほど、先程のやつれた表情の正体はそれか。 「聞きたい事は山ほどあるが、とりあえず俺自身の性が知りたい」 「知ってどうするのデス?」  知らなければ、幸せな生活を送れる事だってあるというのに。 「俺の知り合いに、男のΩがいる。俺はそいつを落としたい」 「…………」  京弥彦――。そういえば、時雨との会話で時々その名前を聞いた事があったな、と思い出す。弟の雨月を始め、幼子にもよく好かれる、みんなの兄のような存在であり、カブキ界を担っていくには相応しい人間だと。それに、かなりの策略家だとも聞いていた。そんな人間が、私のようなしがない研究者に取繕う事もせず、たった一人の男を落としたいとこうして訪れている。なかなかに興味深い。 「正確な事は分かりませんが、私はαです。同じαなら、匂いで分かります。発情期も来ないのであれば、一般的な性であるβである可能性が高いですね」 「…………」  弥彦は何も言わない。おそらく薄々気付いていたのだろう。 「αとΩには、αがΩのうなじを噛む事で成立する〝番〟という関係や、本能で互いが惹かれ合う〝運命の番〟というものが報告されていますが、βやΩでも子を身籠る事は可能ですヨ」 「そのβとΩでもΩが子を身籠れば、Ωの発情期はなくなるのか?」  三か月周期で千景を襲う発情期は、段々と酷くなってきている。弥彦は年々酷くなる彼の発情期を……、千景を自分自身の物にしたいという欲求以前に、これ以上見たくはなかった。 「Noデス。Ωの発情期が止まるのは、αとΩで番になった場合のみ。αとΩで番になっていたとしても、運命の番である相手が現れれば、Ωは発情するそうデス。互いを思い合っていようが、運命の番からは逃れられない。最近の研究で分かった事デス」  自分の知っている事は全て話した、とルイスは締めくくる。弥彦はしばらく口を開けずにいた。βである自分では千景を救う事も、物にする事も出来ない、そう言われた気がした。 「方法はないのか? あの人を……他のαとやらにも、運命の番とやらにも渡したくないんだ」 「……貴方とそのΩの方は、愛し合っているのですか?」  ルイスは弥彦を見据え、そう問う。先程から聞いていれば、どうにも弥彦の独りよがりに思えてならない。〝番〟という関係は、互いが愛し合っていないと辛い関係だ。婚姻のように、合わないからと言って解消出来るものではない。 「あの人は……千景さんは、多分俺をそういう対象としては見てないだろうな。けど、もう何年も千景さんが発情期の度に、あの人の匂いに充てられて、そろそろ色々限界なんだ。俺の気持ちが、千景さんがΩである事によって生まれた紛い物だとしても、俺はあの人を手に入れたい」 「……貴方の覚悟は分かりマシタ。いいでショウ。ヤヒコ、私と取引デス」 「……取引?」  首を傾げる弥彦に、ルイスは鞄から小さな瓶を取り出す。 「コレはαの血の成分を損なわない程度に限りなく薄め、様々な薬品を私が独自に配合したものデス。動物への実験は成功しましたが、人への実験はまだ出来ていまセン」 「……それを飲めば、俺はαになれると?」 「Oh、話が早くて助かりマス! ただ、この薬はあくまで実験段階デス」 「……失敗しても、何が起きても責任は取れない。そういう取引か?」 「Yes.それでも良ければ、貴方にこの薬を差し上げましょう」 「……薬の効果に期限は?」 「身体に馴染めば、貴方はずっとαのままでしょう。動物への実験ではそうでしたから」  あくまで人間への影響は分からない、とルイスは繰り返す。 ◇◆◇  ルイスから薬を受け取ってから数日。  未だに弥彦は、薬を使えずにいた。使いたいのは山々だったが、もうすぐ大きな公演が控えている。それが終われば、今度は千景が主演の公演。今まで、千景の事や余計な事を考えなくて済むと歌舞伎に打ち込んできた。けれど今回ばかりは、それが少しばかり恨めしい。 「…………」  ようやく薬を使える時が来た。二人の出る全公演が終わり、ようやく迎えた休演日。そして好都合な事に、もうすぐ千景の発情期。 「……飲むなら今、か」  この薬を飲んだ後の事は、分からないままだ。最悪、死ぬ事だってあるかもしれない。そうしたら京家はどうなる? そんな事を考えたりもした。薬を飲むのを止めようと思った事も勿論あった。けれど、少しでも可能性があるのなら、飲んでしまいたいという思いも同時に強かった。雨月や蛍の事を知る前だったら、きっと飲むのを止めていただろう。けれど、幸せそうなアイツらを見ていたら途端に自分が惨めに思えた。 (俺だって……幸せになってみたい)  諦めていた。千景との関係を割り切って、どっかの令嬢と結婚して、跡取りを作って、京家を次の代に繋いでいかなければならない。それが弥彦にとっての全てだった。もう何年も千景への思いは、肌を触れさせていた事で生まれた紛い物であり、彼への同情心なのだ、と自分自身に言い聞かせてきた。親父ももう年だ。最近親父は『次はお前が、京家を背負うのだ』と、口癖のように言う。周りの使用人の態度だって、そうだ。正直、まだ俺には重たすぎて、投げ捨てたくなる時もある。けれど、そうもいかない。もう、それが分からないほど子供でもない。 「……ごめんな」  口をついて出た謝罪の言葉と共に、部屋に戻った弥彦は薬を一気に飲み干す。何に対する謝罪なのか、自分でも分からなかった。千景に対してなのか、京家に対してのものなのか――。 「……っ!!」  血液の流れに沿って、ものすごい勢いで全身に薬が回る感覚。薬が心臓に辿りついたと分かる、心臓を鷲掴みにされたような、一瞬息も出来なくなる程の痛み。 「……かっ、はぁ……っ」  崩れ落ちそうになる身体を何とか持ちこたえ、息が吸える様になると、ゆっくりと呼吸を整える。 「…………」  大分落ち着いてきた。手を閉じたり開いたり、少し部屋の中を歩き回ったりしてみるが、特に変わった事はないように思う。 (……成功した、のか?)  薬の効果が表れたのは、それからすぐの事だった。酷い頭痛と、強烈な吐き気。あと、少しばかり敏感になったように思う、嗅覚。それに気付いた使用人が、慌てて医者を呼ぼうとしたのを『大丈夫だ』と言って、止めさせる。幸い、千景は外出中だ。それらが収まったのは、翌日の夜だった。心配した使用人や、外から戻った千景が弥彦の部屋を何度か訪れたが、弥彦はその間誰も部屋に入れなかった。 ◇◆◇ 「……弥彦くん、昨日から何も食べてないだろ? 食欲がなくても、何か口に入れないと……」 「……千景さん、アンタ一人か?」 「……そうだよ」  ようやく落ち着いた頃、扉越しに聞こえる千景の声。彼一人だという事を確認して弥彦は、布団に座ったまま『どうぞ』と千景に声をかける。 「「……っ」」  扉を開けた瞬間、お互いが何かに気付いた様に顔を見合わせる。 「……よ、よかった。昼間みたいに入れてもらえないかと……」 「……悪かった。もう、平気だから……」  千景は必死にいつも通りを演じる。だって、そうしなければ〝何か〟が変わってしまう気がした。 「……そっか。お粥、作ってもらってきたから食べられそうなら食べてね。じゃあ、俺はこれで……」  早く。早く、ここから出ないと――。 「千景さん、昔みたいに食べさせてよ」 「なに、言って……」  昔、一度だけ弥彦が公演後に寝込んだ事があった。その時、付きっきりで弥彦の看病をしてくれたのが、まだ付き人になりたてだった、千景だった。 「頼むよ、千景さん」 「…………」  演技なのか、素なのか。眉を下げて、布団に座ったまま、こちらを見上げて来る弥彦。昔、何度か見た事がある弥彦の甘えたような表情。  弥彦の部屋に入って、いや入る前から感じた、甘い匂い。今までの弥彦とは決定的に違う、匂い。身体中を溶かされそうな、甘い匂い。全身が震える。 「……分かった、よ」  逃げ出したいのに、それでも弥彦を無視する事は出来ない。  弥彦の隣に座り、震える手でそっとお粥を弥彦の口元へ運ぶ。 「……あ、熱くないかな?」 「ああ。俺が昔好きだって言った味付け、まだ覚えててくれたんだな」  少し、味噌の入ったお粥。普通のお粥に飽きた、と言った弥彦に千景が厨房に頼んで作らせた、特製だ。千景が唯一覚えている、母親の料理でもあった。 「……俺は、君の付き人……だから」  それから最後の一口をようやく運び終える。もう、これ以上は限界だ。 「じゃ、じゃあ……ゆっくり休んで――っ!?」  立ち上がろうとした、その時。千景の腕を弥彦が掴む。それ程強い力ではなかったと思う。けれど、千景は動けなかった。掴まれた所から甘い痺れが走って、身体中の力が抜ける。 「……千景さん。何か、感じないか?」 「……っ、何の事?」 「俺は、さっきからずっと感じてるよ。アンタから、すごく甘い匂いがする」 「き、きのせい……だよ」  弥彦の声が耳元で響く。毒みたいだ。どうして。今まで、こんな事一度もなかった。俺はこんなにも強烈な匂いも、弥彦のこんな大人びた声音も知らない。 「お、俺……このあと、用事が……」 「今日は、何もないって聞いたけど、それって大事な用?」 「嘘だ……よ。いつ、聞いたの……それ」 「さっき。千景さんが来る前、厠行った時」 「…………」  弥彦が千景を抱きしめる。呼吸を止めても分かる、弥彦の匂い。胸が高鳴る。この感覚は知ってる。駄目だ。今は駄目だ。来るな。 (……今は駄目だ) ドクンッ―― 「……っ!」 ――発情期。予定では、もう少し先だったはずだ。けれど、弥彦の匂いに充てられたのだ。この匂い、もう微かにしか思い出せないけれど、あのルイスや雨月から感じた匂いに似ている。似ているけれどそれよりももっと強烈で、抗えない。今まで保てていた理性が、きかない。今すぐ弥彦に抱かれたい――。 (……これがαが感じる、発情期のΩの匂い)  今にも千景を抱き潰してしまいそうだ。  部屋に籠っていた間も、僅かに千景の物と思われる匂いは感じていた。けれど、自分の体調の事もあってか、我慢出来ない程じゃなかった。 「……やひこくん……おれ、から……はなれて……おねがい、だから……」 「……いやだね。俺は……、俺はアンタを番にするために……αになったんだ……」 「えっ――んっ!?」  弥彦の強引な口付け。 「……ふぁ……んんっ、っ」 (……だめ、だ……呑まれる、な……っ)  そう思うのに、弥彦を拒みたいのに、身体が動かない。頭が働かない。どこもかしこも甘く痺れて、弥彦が触れた所全部にビクビクと身体が反応する。 「……ちかげさん……俺、ずっとアンタが好きだった」 「……何言って……それは、おれの発情期に充てられてるだけ」 「そうかもな。けど、それは過程であって結果じゃない。俺はもう、アンタのいない生活は考えたくない」 「何言ってるの、弥彦くん。君は京家の跡取りなんだよ。それなのに、何考えて。あっ」 「雨月が言ってたろ。俺が、周りに何も言わせないだけのやつになればいい」  段々と思考が鈍っていくのが自分でも分かる。自分のせいで、彼の人生を狂わせてはいけない。拒まなきゃいけないのに、弥彦の手を取ってしまいそうになる。全てを曝け出して、弥彦を求めてしまいたいと思う。 「なあ、千景さん……答えてくれ。親父への恩だとか、俺の未来だとか……そういう柵、全部抜きにして、アンタは俺を好いてくれてるか……?」  熱が上がって、理性が働かなくなっているのは千景だけではない。肩で大きく息を吐いて、どうにか落ち着きを取り戻す。弥彦はどうしても、これだけは千景に聞いておきたかったのだ。 「や……ひ、こくん」  答えられるわけがない。自分を見下ろす弥彦が、いつになく真剣で、切なげで、彼の望む答えをあげられたらどんなにいいか。 (俺は……君の未来を捨てられない) 「……答えてくれない、か」  どこか諦めたような、悲しみと苛立ちすら含んだような弥彦の声音。 『……それでも俺はっ』  喉の奥から絞り出すように、弥彦はそう呟くと、千景の手を取りその平を〝ベロリ〟と舐めあげる。 「ひゃっ!? や、やひこくん……、何を……これ以上は……」  弥彦は何も答えず、そのまま慣れた手付きで千景の着物を脱がしていく。  今回は今までと多少の違いはあれど、もう何年もこうして千景と肌を重ねてきたのだ。千景の弱いところは全部覚えた。それらに確実に触れながら、今まで千景が頑なに触ることを拒んだ、後ろの穴へと指を這わす。 「やっ……、そこは、だめ……だ! やめ……ああっ、やだ……だめ、抜い、てっ……やひこ、くん」  片手で千景の腕を抑えながら、もう片方で一本ずつ指を押し込めていく。  初めて触れた千景の中は、温かくてきついけれど、やわらかくて、とろとろにとろけていた。  三本にまで増やした指を、中でぐちゅぐちゅと動かしながら、千景のいいとこを探る。千景に抱かれるまで、男の自分に尻で感じるところがあるなんて知りもしなかった。あそこに触れられると、頭が真っ白になるのだ。ただただ、あの快感に身を委ねたくなる。 「あっ……やっ……だ……っ、――ひぁっ!?」  程なくして見つけた、千景のいいとこを執拗に攻め立てる。行為への背徳感か、快感から逃れるためか、千景は身体をくねらせ、弥彦から逃れようとする。その時たまたま見えた、千景の首筋――。 「……っ!」  弥彦の心臓がドクン――と高鳴り、思わず唾を飲み込む。  首筋が見えた時間など、僅か数秒。それなのに、その瞬間だけ時間が止まったかのように、一瞬にして視認した情報が頭の中を駆け巡る。長い髪から覗いた、汗ばんで艶やかにと濡れた、日に焼けていない白く、男にしては少し細く骨ばった千景の首筋――。  そういえば今まで、気にも留めていなかったけれど、そうか……。千景の匂いに充てられている今、疑う余地は無いけれどルイスの話が事実なら、千景の首筋を噛めば、千景と番になれるのだ。さっきまで互いの熱に浮かされて麻痺していた思考が、一気に晴れる。不思議な気分だ。体感だけど身体の熱は上がる一方なのに、それに伴って頭の中は冷静さを取り戻す。そして、悪鬼のようなもう一人の自分が囁く。『今、千景を噛めば千景はお前さんのモノだよ』と。 (……首、すじ)  千景の中を弄っていた指を、ずるりと引き抜く。その感覚にも千景は、声を上擦らせる。 「んんっ、あっ……はぁ……ぁ」  指を抜かれた事に安堵しているのか、少しだけ落ち着きを取り戻した千景は、息を整えながらこちらを見上げて来る。 「……弥彦くん。どうしたの――ッ!?」  千景の腕を引いて、ぐるんと彼の体勢を仰向けからうつ伏せへ変える。上に跨って、千景の長い髪の隙間から覗く首筋にそっと触れる。ようやく、千景も弥彦が何をしようとしているのかを理解したようで、身体を捩って抜け出そうとするが、ただでさえ発情期で、弥彦に散々色んなところを触られた後だ。思うように力が入らなかった。 「や、やひこくん……まさかっ、待って……」 「ごめんな、千景さん。俺は、アンタを救いたいんだ」 「まっ――痛っ!? ああっ……いたっ、おねがっ……いだっ……んっ、もうっ」  弥彦の静かな謝罪が聞こえたと思ったら、首筋に鋭い痛みが走る。痛さで一瞬息が詰まる。なんとか息を吸い込めはしたが、弥彦を止めようと開いた唇から漏れる言葉は、途切れ途切れでまるで要領を得ない。  涙が零れる。痛み故か、弥彦を巻き込んでしまった事への後悔か。分からない。分からないけれど、噛まれた首筋は次第にじんじんと熱を持ち、おそらく痕が付いたであろうそこを弥彦が何かを確かめるように、数回甘噛みをする。ピリッとした痛みに混ざって、ぞくぞくとした頭のてっぺんから足の先まで甘だるく、蕩けてしまいそうな恍惚感。 「ああっ……んあっ、ひっ……ゔぁ……」  それからの事はあまり覚えていない。噛まれた事がきっかけなのか、たまたま波が来ただけなのか。とにかく、お互いに碌な会話もせず、背徳的な行為に身を委ねる。 「あっ……ひぁっ……やだ、またイっ……」 「……っく」 もう何度絶頂を迎えたか分からない。 汗と涙で霞む視界で、同じく何度絶頂を迎えたか分からない弥彦が、快楽に顔を歪ませているのが分かる。その直後、弥彦の雄々しい自身がズルリと腹の中から引き抜かれ、腹の上に熱いものがぶちまけられる。

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