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 雲一つない青空を目指すかのように、吉住くんは飛んだ。  僕から解放されて、さぞ幸せなことだろう。  美しい菊で彩られた机を手でなぞる。生けられた花の臭いがやけに鼻に付いて、思わず顔を顰めた。 「よかったね、僕から逃げられて」  新しい世界へ旅立った吉住くん。僕は君が心底羨ましい。 「だけど僕は、そこへはいけない」  君を追い詰める程に、この身と心は汚れきってしまったから。  新しい世界に逃げる資格が、僕にはないんだ。 「君の新しい人生が、素晴らしいものでありますように」  君は僕の分まで輝いて。  一点の曇りもなく、悲しいほどに美しくあれ。  座る者を失った机に、パタリと一粒涙が落ちた。

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