3 / 8
insulation
雲一つない青空を目指すかのように、吉住くんは飛んだ。
僕から解放されて、さぞ幸せなことだろう。
美しい菊で彩られた机を手でなぞる。生けられた花の臭いがやけに鼻に付いて、思わず顔を顰めた。
「よかったね、僕から逃げられて」
新しい世界へ旅立った吉住くん。僕は君が心底羨ましい。
「だけど僕は、そこへはいけない」
君を追い詰める程に、この身と心は汚れきってしまったから。
新しい世界に逃げる資格が、僕にはないんだ。
「君の新しい人生が、素晴らしいものでありますように」
君は僕の分まで輝いて。
一点の曇りもなく、悲しいほどに美しくあれ。
座る者を失った机に、パタリと一粒涙が落ちた。
ともだちにシェアしよう!