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あやまち
「……はぁ……」
二度目の溜め息が漏れる。こうやって窓の外を眺めてると、あの日の事を思い出してしまう。
ちょうど去年の今頃だった。
会社の送別会で珍しく二次会、三次会まで飲みに付き合った。最後は雨が降ってくるわ、終電を逃すわでタクシーを拾うハメに。同僚の佐原光平 にグイグイ押されるがまま乗り込み、彼のアパートへ。そこで僕は佐原に抱かれてしまった。
初めての経験だったけど、佐原の方は慣れているようだった。
静かな雨の音は佐原の部屋と外をわけているようだ。時折ぴちょんぴちょんと跳ねる音はピアノの鍵盤を子供がいたずらに叩いてるみたいに不安定なリズム。
僕はベッドに座ってた。佐原が隣に座る。大きな手が僕の身体や頭を撫で、肌に張り付いたシャツのボタンをひとつひとつ外していく。三つ目のボタンに手がかかった時、なんとなく佐原の手を掴んだ。佐原は手元から僕へ顔を上げた。強い眼光の佐原に手の力が抜け、そのまま押し倒された。
「ずっと好きだった」と耳元で何度も何度も囁く声。
甘く囁かれる毎に、僕はなすすべを失ってしまった。
酔っていたのもあって……うん、たぶん正常じゃなかった。佐原の声は呪文みたいに脳内に浸透して、意識の中に在るのは彼の声だけになった。
ろくな抵抗もしないで、気付いたらスラックスも下着も足元で束になっていた。そのままバックの体勢で貫かれ、目を回しているうちに最後の砦のようにまとわりついていたワイシャツもたくし上げ脱がされた。白い布は肘に引っかかり、グシャグシャと丸まって僕の自由を奪う。それはよく覚えてる。後ろから佐原に耳や肩を甘噛みされ身体中に微弱な電流を感じながら、僕は何度も果てた。
脳が真っ白になって閉じた目の裏に赤色や緑色が広がる。意識が飛ぶほどの快感。そんなの初めてだった。
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