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第8話

:「中学から寮生活?!」 頑張ってきたサッカーが認められて、サッカーの強豪校のスカウトが家に来た時に、思わず叫んでしまったのは勝己自身だった。 将人は、ソワソワとしていて、自分では決めかねている、といった感じだ。 「将人は……どうしたいんだ?」 見兼ねた尚之が将人に問いかけた。落ち着かない様子は変わらず 「サッカーは思い切りやりたい……でも……兄ちゃんと…勝己と離れて暮らすのは……」 ――足枷になっているのが兄?! そこにいた全員が思った。そして、当の勝己に 目線が集中する。 「……僕とサッカーを比較するなよ……そりゃ、将人がいなくなったら寂しくなるけど、お前の人生は1回しかないんだから、後悔しない選択を取らなきゃダメだろ。正月くらいは帰って来れるだろ?その時におせちでも作れるように僕も頑張るよ。だから、将人も頑張れ!」 将人はポロポロと涙を流しながら、小さく頷いて、勝己の所へ来て、抱きついて泣いていた。本人の意思が固まれば、あとは保護者との契約書を交わすだけだった。 「……(なお)さんは、それでいいと思う?」 小さな声で義父に問うた。いつからか、将人は尚之のことを『義父さん』ではなく『尚さん』と呼ぶようになっていた。 「言えることは全部勝己が言ってくれたよ。本気でサッカーに打ち込むのなら、こんなチャンスを逃すのは勿体ないだろ?とにかく頑張ってそれでダメなら帰ってくればいい。挑戦なんてものは、若いからこそ出来ることなんだから」 洟を啜りながら、小さくうんうん、と頷く。 勝己はそんな義弟の頭を撫でながら、身体は大きくなったけれど、まだ、子供なのだと思い知らされた気がした。 勝己も春から高校生になる。 推薦が通ったから、既に学校は決まっていた為、受験勉強に追われることは無かった。 学費に負担をかけたくなくて、勝己が選んだのは、都立高校だった。 将人は、スカウト入学の為、学費や学校で使用する雑費などは全て学校負担の契約で、親孝行な次男だ。上手く行けば、大学までついている付属校の為、そこまで、一切、尚之に負担をかけることは無い。唯一かけるとしたら、月々の小遣いと携帯料金くらいだ。 新しい場所で生活がスタートするのかと思うと、感慨深い気持ちになった。お弁当を作る約束は果たせそうにないけれど。 「お互い、頑張ろうな。」 そう言って微笑むと、将人も泣き顔からぎこちない笑顔を作った。 なにが、そんなに将人を不安にさせているのか、が分からないまま、才能のある義弟を自慢に思いながら、頭を撫でて気持ちを落ち着かせるように、大人たちの話を聞いていた。

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