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第9話

3月下旬、将人は新しい学校の寮へ入る為、 義父と3人で新しい部屋に荷物を運んだ。 尚之はボックス型の2トントラックを レンタルしてきて、まとめたダンボール箱を 運んでは器用に積み込んでいく。 それほど多くはない荷物ではあったが、 いつも尚之が使用してる車には積みきれない、 ということで、レンタカーを使うことになったのだ。 建物の割には部屋は広くなく、2人1部屋で、 簡易的な収納と、クローゼットとベッドが置いてある部屋だ。 すでに同室人は引っ越してきているらしく、机の上には勉強道具が並べられ、ベッドには布団が乗っていた。荷物の整理はすでに終わっているようだった。 窓際には1枚板の机があり、真ん中には少し厚めの板ではあったが、簡易的な高めのパーテーションで遮られている。そのパーテーションの隣にロッカー型の収納があり、鍵はかけられるようだった。 自分のテリトリーはあるものの、完全なる個室ではない。これまでの生活とは一変してしまうことに、可哀想な気持ちと知らない誰かとの共同生活は、初めてではないものの、普通の人はそう何度も味わうものでもないだろう。 最初には父がいた。次の時には自分がいた きっとこの部屋では、サッカーの話をするのみか、ライバルとして競い合う相手がやってくるのだろう。せめて、部屋の中だけでは(いさか)いことなく過ごせてくれたら、と義兄として思う。 ある程度の搬入と、荷解きが出来たところで 「そろそろ出ないと、だな。」 尚之は腕時計を見つめて将人の方を向いた。 「……頑張れよ」 「……うん。尚さん…勝己を頼みます…」 まさか、義弟にそんなことを言われるとも思っていなかった勝己が1番に驚いた。 「これでも、将人より歳上なんだからな!!頼みます、ってなんだよ!!」 将人は複雑そうな表情を浮かべながら、 「勝己は華奢だから心配なんだよ……」 と意味深な返答をした。 「あのなぁ、僕だって男なんだから。逆に義父さんに世話になりっぱなしだから、恩返しをする番なんだよ?全く……」 「……ふぅん……恩返し……」 尚之も意味深に呟く。 ――なんなんだよ!!いったい!! 「勝己、そろそろ出るぞ」 「あ、うん。将人、しっかり頑張れよ!!」 「次に帰った時は勝己の料理を楽しみにしてるよ。上手くなれよ」 先日、失敗したのを食べさせてしまったのもあり気まずい表情を浮かべながら勝己は 「精進しておくよ」 と笑って返した。そして、車は尚之と勝己を乗せ、走り去っていく。 去り際、将人は名残惜しそうな表情を浮かべていた。やはり、まだ、中学生にこれからなる身には、寂しさを募らせる部分も大きいのだろう、と感じる。勝己が逆の立場ならそう思うと思うからだ。 そして、将人はサッカーの強豪校の名門私立校へ入学をして行った。

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